明日なき狼達
 頷いた澤村をじっと見つめながら、

「場合に寄っては、君自身の身が危うくなるやも知れんぞ」

「ですから先生に助けて欲しいと……」

「紀子、済まんが酒を…今度は燗がいいな」

「はい」

 紀子が部屋を出て行くと、

「流石にここからの話しはあの娘には聞かせられんな」

「はい……」

「滝沢が絡んだその事件というのは、儂も朧げながら知っておる。真相かどうか知らんが、警官殺しからその犯人を殺した経緯、これも知っておる。一つ君にアドバイスをして置こう。奴が昔から後ろ楯になっていたのは、尚武会だ。
 滝沢はな、関東を地盤とした親栄会を自分の薬籠中にし、西日本最大の力を持っている尚武会とを縁組させようと考えておる。これの意味する所が判るか?
 ヤクザの統一だ。尚武会にしてみれば、この話しは損が無い。じゃが、親栄会にしてみれば、何のメリットも無い。メリットがあるのは、間に入る滝沢と尚武会の方だ。当然、親栄会はその話しには乗らない。がだ、親栄会の内部に自分の意に沿って動く人間を作ったらどうなる?
 しかも、その人間を親栄会の次期会長とかに据えたら」

「うちが関西と相入れない事は、組内の誰もが判っている筈です。簡単に滝沢のロボットになる輩が……」

 澤村は、そう言い掛けて押し黙った。

 三輪という名前が過ぎった。

 奴は、自分が犯した不始末でさえ、己の権力を満たす為の道具にする男だ。

 澤村の予想外な展開になって来た。

 遠目には小さな波に見えたのが、大型のタンカーをも飲み込む巨大な波であった。

「滝沢を……滝沢秋明を倒す事は不可能なのでしょうか?」

「どんな巨像でも、何万という軍隊蟻に、時として倒される事がある。不可能な事ではないさ」

「それはどうすれば……」

 丁度そこへ紀子が酒を持って来た。

「それは自分達で考えたまえ。多少なりとも、儂自身、滝沢から恩恵を享受してる訳だから」

「先生も敵に回さなければならないのですか?」

「それは君達次第だ」

「そうですか。先生、万が一の時には、恩を仇で返す事になるかも知れませんが、その時は……」

「骨は拾おう……そうはならんと信じておるがな。」

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