明日なき狼達
 辻の家を出た時は、既に東の空が明るくなり始めていた。

 匡さん……とんでもない相手に関わってしまいましたね……

 澤村は身震いするような心持ちになった。

 表通りでタクシーを拾おうとしたが、思い直して電話を掛けた。

(もしもし、浅井ですが)

「俺だ、澤村だ。こんな時間に済まないが、会えないか?」

(いいですよ。後一時間程で本部当番の交代なんで、それ迄待っていて頂けますか?)

「ああ、じゃあ適当に時間を潰してるよ」

(当番が交代したら直ぐに電話します)

 浅井は、三代目親栄会若頭である西尾の若い衆であった。

 澤村とは歳もさほど離れておらず、よく酒を飲んだりもする。

 浅井は元からの親栄会派で、澤村は旧百人会系だったが、馬が合った。

 信頼出来る男であると思っている。

 二人で飲んだ席などでは、良く口癖で、

「俺に何かあったら、妹を頼む」

 と言う位の仲だ。

 盃こそ交わしていないが、心の中では兄弟分以上だと思っている。

 喫茶店でも無いかと歩いてみたが、この辺りには明け方に店を開けてる所が無い。仕方無しにぶらぶら歩きながら時間を潰す事にした。明け烏がゴミ袋を漁り、飲食店の残飯を啄んでいる。

 歩きながら過ぎるのは、滝沢秋明の事であり、それに踊らされている三輪の事であった。

 いや、俺達も考えように寄っては滝沢に踊らされているのかも知れない。

 俺は飛んだお節介焼きだな……

 自嘲気味にそんな事を思った。


 一時間後、開いたばかりのホテルの喫茶店で、浅井と会った。

 澤村は、松山の件を話し、そして辻と話して来た事を話した。

「澤村さん、あんた下手すると命落とすよ……」

「そうなったらそうなったさ。その時は久美子を頼むよ」

「久美子さんを頼むじゃなくて、力を貸してくれって言ってくれないのかい?」

「済まん」

「話してくれて嬉しいよ。匡さんとは直接面識は無いが、澤村さんがそこ迄惚れたお人だ。俺にも何かさせてくれ」

「俺が直接三輪の叔父貴の動向を探ると、動きが相手に伝わる。三輪の叔父貴の所に出入りしてる男の事をそれとなく調べてくれないか?」

 浅井は黙って頷いた。

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