明日なき狼達
「内調があの男にさほどの興味を示さないってのは、ちょっと眉唾もんだけど、それはそれとしてだ。歴代の総理大臣であの男を蔑ろにして、まともに就任期間を過ごせた者は居ない。愛人が居るのをリークされたり、収賄を暴露されたりといった具合にだ。当然、その呪縛から逃れる為に、奴の身辺には監視の目を張り巡らしている筈だ。首相になる者は皆、すべからく己の保身の為にそういった動きはして来た筈だぜ。特に、今の首相は議員時代から何かと繋がりを噂されてた…なあ、お前が情報源だとは絶対に漏らさないから……」

「……」

 見つめる野島の視線に耐えられなくなったのか、吉見は俯いて口をつぐんでしまった。

「吉見、貝になるんなら、こじ開けるまでだぜ……」

 何気にドスの利いた凄みのある物言いに、吉見は動揺の色を隠せなかった。

「お前、まだあの秘密倶楽部に出入りしてんだろ?
 チラッと何日か前にあの倶楽部の辺りで、デカイ紙袋を持ったお前を見たんだ……」

 野島のはったりだ。確かに一度だけ偶然、吉見がその倶楽部に出入りしてるのを見た事はある。だが、それは随分と前の話しだ。

 野島の言葉に驚きの表情を見せ、吉見は見る見るうちにうろたえ出した。

 カマ掛けたら図星だったってやつか……

 野島は内心、ほくそ笑んだ。

 野島が吉見を見たという秘密倶楽部とは、女装専門の秘密倶楽部の事である。

 女装趣味の男が集まり、男装した女にいたぶられ、犯される…そんなプレイを一対一では無く、乱交状態で行う。

「吉見、理恵さんとは上手くいってるのか?」

 理恵とは、吉見の妻の事である。

 実は、仲を取り持ったのが野島の元女房なのである。

「……」

「内調勤務なんて、エリート中のエリートだからな……。
 まあ、その分ストレスも溜まるから、どっかで発散させなきゃならねえが、現場で働いている男達はその事を理解してやれても、女はな………」

「野島さん、あんた、本当に俺が情報源だってばれない確約出来ますか?」

 墜ちた……

「勿論、約束する」

「条件付きなら……」

「言ってみてくれ」

「それ相応の報酬……」

 ニヤリと野島は笑った。金の話しが出たのなら話しは早い。

「幾ら欲しい?」
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