明日なき狼達
 荒川を挟んで向かい側が埼玉県という位置にある赤羽は、昔は川口と並んで町工場の立ち並ぶ街であった。

 近年は、東北新幹線や埼京線の開通等もあり、当時の面影も失くなり、年々ベッドタウン化し、高層マンションが立ち並ぶ街になって来た。

 待ち合わせの時間が丁度、混み合う時間帯だった。

 改札口を出る前に、野島は吉見から渡されたケータイで、指定された番号に電話をした。

「俺だ。今着いた」

(ええ、判ってます。電話の間は絶対に名前を呼ばないで下さいよ)

「判ってるって、今何処に居るんだ?」

(大丈夫、近くに居ますから…言われた通りに歩いて下さい)

 野島は薄ら寒い感覚になった。

 尾行されてた?

(西口の改札を出て下さい)

「判った」

 何だか見えない人間にコントロールされるというのは妙な気分になる。

 不安が襲って来た。

(心配しないで大丈夫ですよ。念を入れてるだけですから)

 俺の心の中迄監視出来るのか?

「改札を出たぞ……」

(左手を見て下さい。大きなスーパーがあるのが判りますか?)

「ああ……」

(そっちに向かって下さい。スーパーの中に一旦入り、売り場の一番右奥の出口から、誰か客と一緒に紛れて出て欲しいんです)

「念を入れるのはいいが、込み入り過ぎてないか?」

 野島は辺りを見回し、吉見の姿を捜した。

 見えない……。

 警察学校はおろか、現場でもこんなやり方は教わらない。

 流石、内調だな……

 指示通りスーパーを出ると、駅前の道より細い道に出た。

(スーパーを背中にして、左へ行って下さい。あ、後ろとか振り返らないように。真っ直ぐ歩いて、二本目の路地を右に)

 人通りがまばらになった。

(煙草の自販機の前で立ち止まって、買うふりをして下さい)

 野島の横を若いカップルが通り過ぎた。

 後ろには誰も居ない。いや、見えないだけで吉見がついて来てる筈だ。

(OK。その角を左に。斜め向かいに駐車場があります。そこに入り、駐車されてる車の後ろに回って下さい。平屋の一軒家があります)

 行くと、確かに古い一軒家があった。そこで、電話が切れた。

 野島は反射的に身構えた……。
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