明日なき狼達
 駐車場の方に目を凝らしていると、突然別方向から吉見が現れた。

「心配しないでも良いですよ」

 身構えている野島をやり過ごすようにして、吉見は一軒家の裏手に回った。

 勝手口から入り、家の中から玄関の扉を開けた。

「どうぞ」

 辺りに人影が無い事を確かめながら、吉見は野島を招き入れた。

 入って直ぐが台所になっていて、ガラス戸越しに六畳の和室があった。

「お茶にしますか?それとも缶ビールで良ければありますが……」

「飲める気分じゃないな」

「じゃあお茶で」

 吉見は電気ポットのスイッチを入れた。

「お前、ずっと尾行してたのか?」

「ええ、まあ……」

 郵便局に行ってるのも見られたかも知れない……

「私も、テープレコーダーを用意しましたから……」

 吉見は背広の内ポケットから小型のテープレコーダーを出し、テーブルの上に置いた。

「さて、滝沢の何を知りたいのですか?」

 憮然とした表情をしたまま、野島はこれ迄の経緯を話し始めた。

「俺は、本庁時代に奴をパクれる寸前迄行きながら、それが出来なかった。その時の件もそうだが、青山という男との関連と、今回のコロシの一件を内調は何処迄調べたかを教えてくれ」

 吉見は言葉を選びながら、ゆっくりと話し始めた。

「……という訳で、野島さんが本庁時代に手を掛けた件は、完全に滝沢が森巡査部長を狙ったものです。滝沢の意を受けて、当時の百人会で幹部をやっていた三輪が、ある殺し屋を使って実行しました」

「実行犯の名前は判ってるのか?」

「野島さんの推測通り、翌日に殺された石丸ではありません。郷田貢……当時三十七歳、元自衛官」

「自衛官……」

「ええ。事件後、イラク紛争に傭兵部隊の一員として参加。元習志野の空挺部隊員で退官した後、暫くアメリカの傭兵学校へ行き、その後、アフリカや南米でのミッションに加わってます。アメリカに居た当時には、マフィアの依頼を受けて何度かヒットをしてます」

 野島は納得した。

 殺しの訓練を受けた者だからこそ、正確に、しかも三発もの弾丸を命中させられたのである。

「その男がバハマで青山も?」

「あれは現地のギャングにでも頼んだのでしょう」

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