明日なき狼達
「青山を殺した理由は何だ?」

「はっきりはしませんが、青山と滝沢は古くからの関係です。青山がニシダビューティクリニックで社長室長にまでなり、西田加代子の寵愛を良い事に、会社の資産を我が物にしました。
 海外に姿をくらました後、当然の結果として、会社は倒産。その後、債権者代表として登場して来たのが滝沢秋明。どう考えても芝居の筋書は滝沢が書いたとしか思えない。
 その海外に持ち出した資産ですが、総額で六千五百億。青山が殺された直後にアメリカとヨーロッパから日本向けの貨物船が急遽チャーターされました。マルエス扱いで……」

「マルエスってえのは、防衛省絡みの荷の事なんだろ?」

 吉見は黙って頷いた。

「船がチャーターされる前日、ダイヤモンドの相場が瞬間的に上がりました。
直ぐ様、デビアスが介入して、供給調整をしたんです。世界中のダイヤモンド取引所で買い占められた物の総額が六千五百億相当……。
 取引に際しての窓口は、全てフランク・キャプランという男がやってます。ちなみに、父親のマイケル・キャプランと滝沢とは、旧知の間柄……。
 面白い事に、殺された青山と息子のフランクとは、以前に身体の関係があります」

「身体って?」

「青山は両刀遣いでしたから。実は、滝沢に見出だされたのも、新宿二丁目の頃だそうですから。男メカケってやつですね」

「それで、内調の調べだと、滝沢は六千五百億の金をダイヤに換えて日本に持ち込もうとしてるって訳だな?」

「ええ」

 野島は、吉見の言葉を思い出した。

 六千五百億円相当のダイヤを手に入れる事が出来ると……

「おい、そのダイヤをどうやって頂くんだ?」

「税関チェックの時に」

「……?」

「税関の職員に成り済ませば事は簡単です。書類に記載のされていない物、つまり密輸品の没収という事にすれば、問題無く頂けます」

「税関吏に俺達がなるって事か?」

「別な人間を雇っても構いませんよ」

「どうやって成り済ますんだ」

「実は、内調の方でその手筈は整えてあるんです。首相からの意向で、滝沢の首根っこを押さえる手立ては無いかと、ずっと機会を窺っていたんです。今回の件は向こうからチャンスをくれたようなものです……」

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