明日なき狼達
 吉見の目が妖しく光った。

「予定時間の前に、我々が税関職員になって荷物検査をし、これは密輸品だと言って物を没収してしまえばいい訳です」

「その手引きをお前がか?」

「ええ」

「で、取り分が半分」

「それが条件です」

「荷はいつ入るんだ?」

「明後日、横浜に」

「判った。返事は今夜中にする。それで構わないか?」

「お渡ししたケータイで連絡を頂ければ。但し、今夜の12時を過ぎても連絡が無ければ、この話しは一切無しです。そうなった場合は……ま、僕もそうなって欲しく無いですけど。余り荒事をしたくないので」

 野島は吉見から強い圧迫感を感じた。

 これは脅しでは無い……

 内調の連中ならどんな手でも使える……

「大丈夫だよ。これだけの話しを聞いたんだ、イエス以外の返事はしないさ。ただ、この話しを他の仲間にも伝えた上で、全員の総意として返事をしなきゃならない事情があるんだ」

「判りました」

 吉見と別れてから、野島は自分の時計を見、梶に連絡を急がなきゃと思った。

 吉見の隠れ家にはかれこれ二時間近く居た。心配しているかも知れない。

 案の定、電話に出た梶は、

(今、皆と心配してたんですよ)

 と言った。

 しかし、吉見の野郎、脅しを掛けたつもりが逆に掛けてきやがって……

 児玉達の所へ戻る迄の間、野島は吉見から聞いた話しを自分なりに考えてみた。

 話しは全て本当であろう。ただ、ひょっとしたら、罠だという可能性も捨て切れない。

 その辺の用心はするに越した事は無い。

 相手は内調だ。

 用心の仕方をどうするか……

 野島は、真っ直ぐに児玉の家には向かわず、途中何度も駅を降り、タクシーを二度程使った。尾行が付いてる可能性はゼロでは無い。

 背中に薄ら寒さをずっと感じたまま、野島はやっと国立の駅に着いた。




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