明日なき狼達
 傍らで話しを聞いていた児玉が、

「自衛官上がりとおっしゃいましたね?」

「ええ」

「郷田陸士長……」

「知ってるんですか?」

「私の元教え子です」

「教え子……」

 児玉は自分の履歴を松山には話していたが、他の皆には、まだ詳しく話していなかった。

「こりゃ驚いた。児玉さんがレンジャーの教官だったとは……私らてっきり防大出の制服組かと思ってました」

「しかし、皆、妙な縁を抱えてんだねぇ。糸が絡まり過ぎちゃってこんがらがっちまうよ」

「絡まった糸の行き先が……」

「滝沢秋明」

「だね」

 児玉は郷田を教えていた頃の事を思い起こしていた。

 郷田は教官としての最後の隊員であった。

 レンジャーになる為に生まれて来た男……

 レンジャーというより、戦う事でしか己の存在意義を見つけられない男と言っていいかも知れない。

 自衛隊を退官した後、外国の傭兵部隊に入ったという噂は耳にしていた。イラク紛争に参加していたとの噂を風の便りで聞いた時は、奴らしいと思ったが、よもやこんな形で郷田の名前を聞くとは思いも寄らなかった。

 空挺師団で二年、レンジャー教練で半年……

 郷田の精悍な主立ちを思い出した。

 自分の後のレンジャー教官に推薦したが、本人が辞退した。

 通常のレンジャー教練は、各地の部隊から推薦された優秀隊員が、約二週間の期間を掛けて行うものだが、習志野の空挺師団のみは、最初の一年を一般教練、二年目から特殊教練が加わり、定期でレンジャー教練が行われる。更に優秀な隊員は、常設のレンジャー部隊に配属され、それ迄以上に苛酷な訓練を受ける。最後迄訓練に耐え、無事訓練期間を終えられる隊員は少ない。

 郷田の成績は常にトップであった。

 郷田、どうしたんだいったい……

 児玉の表情を見た松山が、

「その郷田という元教え子と、自分が聞いた雨宮とが同一人物だとすると、敵として再会する事になる訳ですな……」

「……」

「やだよ、敵だとか味方だとかさ、まさかドンパチやるわけじゃあるまいし、ちょちょいとダイヤを頂くだけなんだからさ」

「そうだね……」

 そう言った児玉だったが、本心は正反対の事を思っていた。
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