明日なき狼達
児玉は、見てはいけない現場に立ち会ってしまったかのような気分になった。
事情はあれだけの会話では窺い知れないが、他人が立ち入るべきものでは無い事だと判る。
それ程広くない待合室に入り、児玉は自販機で缶ビールを買った。
その男も待合室に入って来た。
児玉は、ほんの少しばかり考えてから、もう一本缶ビールを買った。両手に持ったまま、その男がテーブルに座るのを待った。
男は、煙草を取り出し、火を点けようとしていたが、ライターのガス切れか、なかなか点けられないでいる。
児玉はその男の席に行った。
缶ビールをテーブルに置き、見上げる男にライターを差し出し、火を点けた。
「どうぞ」
男は無言で頭を下げ、児玉が火を点けたライターに煙草を近付けた。
「間違えて余分に買ってしまったのですが、よかったらどうですか……」
児玉が差し出す缶ビールを見て、その男は暫く考えるような素振りを見せた。
「この歳になると、二本はさすがに……」
児玉は、努めて明るく言った。
「……ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
朴訥な喋り方だった。
児玉はちょっと嬉しいような気分になった。
理由は特に無い。
「どうも……」
二人共、それ以上の会話をするでも無く、缶ビールを飲んだ。
児玉は、自分も煙草を吸おうと思い、ポケットから取り出してみると、空になっていた。自販機で買わなければと席を立ちかけたら、
「ハイライトでもいいですか?」
と、男が差し出した。
「懐かしいですな。昔はこればかり吸ってました」
男は照れ笑いのようなはにかみ方をした。
「私は、ずっと自衛官だったんですが、以前は支給されてた煙草がハイライトだったんです」
「……」
「前はかなりのヘビースモーカーでして、妻や娘に、そんなに吸ってたら肺癌になってしまうよ、なんて言われたりしてたもんです」
「……」
「皮肉なものですね。そう言われていた私はまだ生きていて、私より長生きする筈だった妻と娘が先に死んでしまうんですから……」
「奥さんと娘さんの……」
「ええ……。あのぉ、失礼とは思ったのですが、先程の話しを聞いてしまいまして……」
事情はあれだけの会話では窺い知れないが、他人が立ち入るべきものでは無い事だと判る。
それ程広くない待合室に入り、児玉は自販機で缶ビールを買った。
その男も待合室に入って来た。
児玉は、ほんの少しばかり考えてから、もう一本缶ビールを買った。両手に持ったまま、その男がテーブルに座るのを待った。
男は、煙草を取り出し、火を点けようとしていたが、ライターのガス切れか、なかなか点けられないでいる。
児玉はその男の席に行った。
缶ビールをテーブルに置き、見上げる男にライターを差し出し、火を点けた。
「どうぞ」
男は無言で頭を下げ、児玉が火を点けたライターに煙草を近付けた。
「間違えて余分に買ってしまったのですが、よかったらどうですか……」
児玉が差し出す缶ビールを見て、その男は暫く考えるような素振りを見せた。
「この歳になると、二本はさすがに……」
児玉は、努めて明るく言った。
「……ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
朴訥な喋り方だった。
児玉はちょっと嬉しいような気分になった。
理由は特に無い。
「どうも……」
二人共、それ以上の会話をするでも無く、缶ビールを飲んだ。
児玉は、自分も煙草を吸おうと思い、ポケットから取り出してみると、空になっていた。自販機で買わなければと席を立ちかけたら、
「ハイライトでもいいですか?」
と、男が差し出した。
「懐かしいですな。昔はこればかり吸ってました」
男は照れ笑いのようなはにかみ方をした。
「私は、ずっと自衛官だったんですが、以前は支給されてた煙草がハイライトだったんです」
「……」
「前はかなりのヘビースモーカーでして、妻や娘に、そんなに吸ってたら肺癌になってしまうよ、なんて言われたりしてたもんです」
「……」
「皮肉なものですね。そう言われていた私はまだ生きていて、私より長生きする筈だった妻と娘が先に死んでしまうんですから……」
「奥さんと娘さんの……」
「ええ……。あのぉ、失礼とは思ったのですが、先程の話しを聞いてしまいまして……」