明日なき狼達
 全員が警備員のような格好をしている。

 彼らは吉見のワゴン車目掛けて何発も発砲した。

 梶達はと見ると、駐車場に停められてあった別な車の陰に隠れている。

 野島も這うようにして彼らの所へ近付いた。

 キューンという音と共に、アスファルトの破片が野島の顔を掠めた。

「野島さんっ!」

 松山が手を差し出し引き寄せた。

「畜生!吉見の野郎!」

「そんな事より、とにかく逃げる事が先だ!」

 梶の言葉に頷いた野島が、ポケットからケータイを取り出そうとした瞬間、左手に激痛が走った。

 バシッという音と同時に、持っていたケータイが粉々に砕けた。

 左手を見ると、小指と薬指が消えていた。一瞬の間を置いてから、血が吹き出した。雑巾を絞ったかのように流れ出る血を見て、神谷が悲鳴を上げた。

 野島は直ぐさまネクタイを外し、それを包帯代わりにして左手に巻いた。

「梶さん、ケータイで児玉さんに連絡を!」

「は、はいっ!」

 そうこうしているうちに、吉見とダイヤを乗せたワゴン車は見えなくなっていた。

 車の男達は、一人だけ残したまま、ワゴン車の後を追う為に、猛スピードで発進して行った。一人だけ残った男が、右手に持った拳銃の弾丸を詰め替えながら、ゆっくりとこちらに向かって来た。

 20メートル…

 15メートル…

 10メートル…

 震える手で、梶はやっと児玉に電話を掛けれた。

「た、助けてくれ!」

(今、向かってます!)

 電話が切れた。と、同時に物凄いスピードで児玉の運転するワゴンが走って来た。

 拳銃を手にした男は、ゆったりとした動作でワゴンに銃口を向けた。

 児玉のワゴンはその男を目指して真っ直ぐに走って来た。

 パーン、パーンと銃声がした。

 それでもワゴンは真っ直ぐに走って来た。

 男を跳ね飛ばすかのように向かって来た。男は寸前で身体をかわし、横に転がった。

 児玉のワゴンは、駐車場の中で急転回して止まった。ワゴンのサイドドアが開いた。

「皆、早く!」

 加代子が手を差し延べる。



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