明日なき狼達
 何度か刃先で肉をえぐって行くうちに、それ迄とは違う感触が児玉の手に伝わって来た。指で確かめると、弾頭がひしゃげた弾丸であった。幸い、膝頭より上だったから、皿が砕けてたりとかしてなかった。

 夥しい血が傷口から溢れ出ている。素早く弾丸を取り出し、傷口を塞がなくてはならない。短刀でこじりながら、何とか弾丸を摘出した時には、神谷はぐったりしていた。

 まだ気は失っていない。

 もう一度ミネラルウォーターで傷口を洗うと、児玉は、澤村から受け取った拳銃の弾倉から弾を抜き、短刀の切っ先で薬莢の部分から弾頭を取り外した。

 薬莢の火薬を傷口に満遍なく塗した。一発分では足りなかったようで、もう一発分をそうした。

「皆さん、もう一度しっかり抑えて置いて下さいよ……」

 そう言うと、児玉は傷口に塗した火薬に火を点けた。

 青白く上がる焔と同時に、

「ギャアーッ!」

 という悲鳴が神谷の口から出た。

 一瞬燃え上がった焔はすぐに消えた。肉の焼けた臭いがする。

 火薬で焼けて収縮した皮と肉を縫合し始めた時には、神谷は殆ど気を失っていた。

「晒しを下さい」

 手渡された晒しをガーゼ替わりに当て、最後に包帯をきつく巻いた。

「さて、今度は野島さんの番だ」

「同じ事をするのかい?」

 児玉は無言でウォッカの瓶を渡した。

「野島さんの傷は、消毒だけで大丈夫だと思います」

「あれが消毒?」

「さあ、見せて下さい」

「ウォッカ、もう一本あるか?」

 再び薬莢から火薬を取り出し、野島の左手に塗した。

 肉の焼ける臭いと共に焔が上がった。

 左手首を右手でしっかり握り、涙を流しながら激痛に耐えた。

 縫合をし、包帯を巻いて、やっと全てが終わった。

 どっと疲れの出た児玉は、リビングに行き、ソファにぐったりともたれた。松山が隣に座り、ハイライトを差し出した。

 潰れかけたパッケージから取り出したハイライトをくわえると、澤村が火を点けた。

「澤村と言います。松山さんには、若い頃、ひとかどならぬ世話になりまして……」

「児玉です……」

 二人はそれ以上の会話が出来なかった。

 尤も二人だけではなかったが……
< 94 / 202 >

この作品をシェア

pagetop