明日なき狼達
 吉見は車を途中で二度代えた。こういう事態もあるだろうと想定しての用意だった。

 東名をひたすら走り、大阪を目指した。

 内調にはもう戻れないな……

 警察官僚から内調勤務という、司法の中でもエリートの極みを歩いていたが、今日からはそれを捨てなければならない。別段、その事にはこだわりは無かった。

 家庭に対しても、惜しむという気持ちはまるで湧かない。後部座席に積んであるダイヤモンドがそうさせた。

 吉見は快適なクルージングをしている気分になった。

 運転しながら、次の段取りを頭の中で反芻していた。幾分浮かれた気持ちでいたのが、普段の注意力を削いだ。

 吉見の車の後方から三台の車が代わる代わる尾行して来ていた。尾行の仕方が巧妙で、普通の人間ならばまず気付かない。

 吉見が普段の状況であったならば、ひょっとしたら気付いたかも知れない。

 三台の車は、時々吉見の車を追い越したりして、尾行している事を感づかせないようにしている。

 吉見は関西空港から高飛びする手配をしていた。行き先は沖縄。嘉手納の米軍基地に行き、そこでダイヤと共にアメリカへ飛ぶ。

 内調勤務になって二年目にアメリカ研修に行った。CIAでの研修であった。その頃に女性教官と親しくなった。

 今回は、その彼女の手引きで米軍の軍用機に乗り込める手筈になっていた。

 関西空港に着いた時は、太陽が西の空を茜色に染めていた。車を乗り捨て、ボストンバックを両手に、空港カウンターに向かった。

 那覇迄の最終便をと思い、カウンターの職員に伝えると、当日便は既に満席だと告げられた。

 観光シーズンでも無いのに……

 そう思いながら、仕方無く近くのホテルを取って貰うよう、受付窓口の女性職員に頼んだ。空港からタクシーですぐのホテルが取れたと言われ、吉見は向かった。

 吉見が去った後、その女性職員はすぐに電話をした。

「今ホテルに向かいました。はい、大丈夫です。気付かれてません……はい。では……」

 そう言って電話を切ると、カウンター内のPCを操作した。

 ロビーから見える各便の乗客状況を報せるボードの掲示が変わった。

 那覇行き空席あり……
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