明日なき狼達
 吉見は、わざと大きなホテルを選ばず、少し外れた場所にあったモーテルに泊まった。車のナンバーは控えられてしまうが、フロントに顔を見られる恐れは無い。

 国道から少しばかり脇道を入った所のモーテルに車を入れた時、それ迄尾行して来た三台の車は、吉見に気付かれないようにモーテルの周囲を囲んだ。

 その少し後、関西空港に一人の男が降りた。

 サングラスを掛けたその男は、誰をも近付けさせないような雰囲気と、冷ややかさを漂わせていた。その男とは、紛れも無く、数時間前に横浜港で児玉達に銃を向けた郷田貢であった。

郷田が空港の外に出ると、待っていたかのように一台の車がやって来た。

後部座席のドアが開けられ、郷田が乗り込むと、中にはダークスーツ姿の男達が乗っていた。

「どういう形で始末を……」

郷田が乗っていた男に聞いた。

「音は立てないで欲しい。周りは、一応こちらで固めてはいるが、気付かれたくないので」

黒く日焼けした精悍な顔立ちの男がそう言った。ヤクザとは違う暴力の匂いを漂わせた男達だった。

30分程で、郷田を乗せた車は吉見が泊まるモーテルに着いた。モーテルから少し離れた場所に車は停まった。

運転していた男に電話が掛かって来た。小声で一言二言話しをすると、直ぐに後ろを振り返り、

「7号室です」

と、郷田に告げた。

頷いた郷田は車を降り、ポケットから黒革の手袋を取り出した。ゆっくりとそれを着けながら、モーテルに近付いて行った。胸ポケットからは、ケータイのイヤホンマイクを取り出し、耳に着けて、

「両隣は?」

と言った。

(空室だ)

「侵入してから、両隣に客が入ったりしたら、直ぐに連絡をしてくれ」

(了解)

「ケータイは切らず、このままにしておく」

郷田は、モーテル全体の周辺を注意深く観察した。人気はまるで感じられない。一軒置いた隣の家の二階に電気が点いているだけだ。

その方角から死角になる場所を選び、モーテルに防犯カメラが無い事を確かめると、郷田は二、三歩助走を付けて塀に跳び着いた。

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