セク・コン~重信くんの片想い~





 映画はやはり人気のようで、席はほぼ埋まっていた。かなり後方の席ではあったが、予想を裏切らないなかなかの面白さだった。四人とも大満足で映画館から出てきた。
「あのバードマンのアクションシーン、すっごい迫力だったなー! っつうか、CGの使い方がうまい!」
 恵太と美雪は感想を言い合っていたが、正直なところ、重信は映画に集中しきれないでいた。
 その理由というのも、すぐ隣にアオイが座っていたことに他ならない。
 こっそり映画の画面から視線をずらし、アオイの横顔を盗み見ていたのだ。
 重信にとって、ポップコーンを食べ、夢中でバードマンを観てるアオイの姿はとても魅力的だった。
 無論、バードマンのストーリーが素晴らしかったのは言うまでもない。けれど、そのストーリーよりも、重信にとってアオイの普段見られない姿の方が、勝ってしまったというだけのこと。
「なあ、ハギは今日の映画どうだった??」
 恵太のキラキラした目が重信に意見を求めてくる。
「良かった、かな。俳優の演技巧かったし」
 それに対し、アオイ言った一言に、重信は思わずぎょっとした。
「まあな。でも、オレはあのヒロイン役の子はイマイチだな。胸ばっかでかくてさなんつーか、バカっぽい?」
 穢れなき純白少年アオイというイメージが、重信の中で音を立てて崩れていく。
(む、胸……?)
 重信はショックを隠しきれない。
分かってないねー、アオイは! でかい胸こそ男のロマンなんじゃないかね。ね、ハギくん?」
 恵太は男の意見を代表して、とばかりに、偉そばって腰に手をあて力説する。
 が、正直なところ、ゲイの重信にとってはでかい胸などどうでもいいと
ころ。
「なにそれ、どーせわたしはBカップよ」
 すっかり拗ねてしまった美雪に、恵太が誤解だどうのと、必死でつんとそっぽを向いている彼女にペコペコと頭を下げている。
「オレはどっちかっつうと、スレンダー美人派だね。でかい胸より、スラッとした脚でしょ」
 もう止めてくれ、と重信はアオイの発言にますますショックを受け、誰にも気付かれないようにがっくりと肩を落とした。
(まさか、アオイがスレンダー美人がタイプなんて……)
 重信が勝手に創りあげていたアオイの純白少年像は、すっかり粉々に砕け散ってしまっていた。
 けれど、どうしてかアオイがモデル並のスレンダー美人と仮に一緒にいると考えても、どうしてもそれが妖しい関係の想像しか湧いてこないのは、重信の想像が腐っているからだけではなさそうだ。
 小柄でどう見ても青年というよりは少年にしか見えないアオイだと、スレンダー美人のお姉さんに、「お姉さんといいことしない?」なんて言い寄られて、あんなことやこんなことまでされてしまう想像に行き着いてしまう。つまり、典型的な年下男子、受けて側としてのイメージだ。
 重信が、そんなアオイのちょっとエロい訳の分からない妄想を膨らませているなどつゆ知らず、暢気にアオイ達三人はまだ映画の内容について盛り上がっていた。
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