セク・コン~重信くんの片想い~
「うあー、まじ腹減ったー……」
と、突然アオイがそう呟いた。
「んー、まあ確かにもう五時半だしなー?」
左腕の時計を見ながら、恵太が頷く。
「てか、オレ昼飯食いそびれちまってさー……」
「まじ?!」
ぎょっとして重信がアオイを見下ろしたと同時、恵太と美雪が声を揃えてさけんだ。
「何で?」
気付いたときには、そう重信が口にしていた。
「実はオレさ、高校じゃ帰宅部してっけど、外部でバイクトライアルのクラブチーム所属しててさ」
恥ずかしそうに話始めたアオイ。
「バイクトライアル??」
聞き慣れない言葉に、三人は興味津々な様子だ。
「まだ日本じゃそんな有名じゃねぇんだけど、専用のマウンテンバイクで、岩山とか段差とかを足つかねえで登ったり下りたりする競技なんだけど」
嬉しそうに熱の入った目で説明するアオイの表情に、重信はすっかり見入ってしまっていた。
「かっこいいな」
無意識に、そう口にしていた重信は、はっとして自らの唇を手の甲で覆う。
驚いた顔をして見上げてくる恵太と美雪。そして、ほんの少し赤くなったアオイ。
「だよな! 俺もすごいと思うよ」
恵太は興奮気味にそう付け足した。
一方のアオイは、いつもは無口でめったに考えていることを口に出さない重信に、予想外にも「かっこいい」なんて言われたものだから、内心物凄く動揺しまくっていた。
けれど、それを言った当の本人である重信は、そんことも露知らず、アオイの競技姿を見てみたいだなんて、こっそり考えてみたりしているのだった。
「あっ、そうだ。こっからオレのバイト先すぐそこだし、夕飯食ってかね?」
突然のアオイの願ってもない提案に、重信の心はまたもや昇天しそうになる。
(アオイのバイト先!? おいしすぎるだろ!!!)