セク・コン~重信くんの片想い~
8話 エース・アオイ
”ハギ” こと 萩本 重信(はぎもと しげのぶ)と、塚本アオイがつるみ始めたのは、つい一カ月程前の事。
以前はベッタリだった幼馴染みの井本 恵太(いもと けいた)とは、相変わらず仲はいいが、生憎彼には大西 美雪(おおにし みゆき)という彼女ができてしまった。
……という訳で、どういう訳かこのところ登下校は主に四人一緒。そしてこの日も、日常となりつつある昼食も四人一緒に摂っている訳だ。
「ハギー、腹減ったー」
腹を空かせたアオイに何か食べさせるのは、もう重信の役割となりつつあった。
「また忠犬ハギが主人のアオイを餌付けしてる」
構図的におかしいのはさておき、恵太と美雪が顔を寄せ合ってヒソヒソと話している間、重信は買ってきたばかりの週刊漫画を読み耽りつつ、アオイの口にポイポイ鳥の唐揚げを放り込んでいく。なんとも器用な男、重信。
「そうだ。わりぃけど、今日からしばらくオレ先に下校するわ」
読み耽っていた漫画から目を離し「なんで?」
と、重信はすかさず訊ねた。
「バイクトライアルの練習が試合前の調整に入るから、ちょっと早目に行っときたいんだ」
唐揚げをはむはむと頬張りながら、アオイが言った。
「調整?」
三人ともが思わず聞き返す。
「ああ。今週末予選大会があんだよ。んで、その調整」
そう答えたアオイを、重信は漫画を机の上にポンと置いてじいっと見下ろす。
「無口なハギを代弁するとさ、予選大会があるなんて初耳だぞ。だと思うな」
恵太が人差し指を立てて、自身満々にそう言うのを見て、美雪がすぐ隣で口を押えて笑いを堪えている。
余談だが、最近分かってきたことなのだが、この美雪という少女、ただの恵太の彼女という者ではないようだ。どうも、このところ巷で話題になっているあの種類の人間らしい。そう、”腐女子”と呼ばれるあの人達である。うまく隠してはいるが、重信にはそう考える確信があった。
偶然にも彼女が執筆した作品をネットで見つけてしまったときには、驚きと衝撃で凍りついてしまったものだ。なぜ彼女が作者だと分かったかと言うと、登場人物にアオイと恵太、シゲの三人が出てきていたからだ。恐ろしくて内容までは読んではいないが、あらすじからすると、主人公はアオイというツンデレ可愛い系男子で、どうも恵太とシゲとの三角関係がテーマらしかった。ちなみに、作者名は”みゆき”。どう考えたって、美雪本人としか考えようがない。
一見爽やか系真面目女子の美雪が、と正直重信も少しばかりショックを受けたが、このこと
を恵太やアオイには言うつもりはなかった。実際、重信自身だって、”ゲイ”だということを、皆に隠して生きてきたのだから。
彼女に妄想のネタに使われているなんて知りもしない恵太は、暢気なものだ。彼はまさに天然男に違いない。重信は彼に太鼓判を押してやりたいとこっそり思った。そして、BL小説ランキング一位に輝く作品を生み出しているこの美雪にも無言のままじいっと見下ろしてくる重信と、きらきらと目を輝かせて見つめてくる恵太と美雪にいたたまれなくなって、アオイがとうとう折れた。
「……れ、練習見に来る?」
「「「行く!」」」
即答だった。
以前はベッタリだった幼馴染みの井本 恵太(いもと けいた)とは、相変わらず仲はいいが、生憎彼には大西 美雪(おおにし みゆき)という彼女ができてしまった。
……という訳で、どういう訳かこのところ登下校は主に四人一緒。そしてこの日も、日常となりつつある昼食も四人一緒に摂っている訳だ。
「ハギー、腹減ったー」
腹を空かせたアオイに何か食べさせるのは、もう重信の役割となりつつあった。
「また忠犬ハギが主人のアオイを餌付けしてる」
構図的におかしいのはさておき、恵太と美雪が顔を寄せ合ってヒソヒソと話している間、重信は買ってきたばかりの週刊漫画を読み耽りつつ、アオイの口にポイポイ鳥の唐揚げを放り込んでいく。なんとも器用な男、重信。
「そうだ。わりぃけど、今日からしばらくオレ先に下校するわ」
読み耽っていた漫画から目を離し「なんで?」
と、重信はすかさず訊ねた。
「バイクトライアルの練習が試合前の調整に入るから、ちょっと早目に行っときたいんだ」
唐揚げをはむはむと頬張りながら、アオイが言った。
「調整?」
三人ともが思わず聞き返す。
「ああ。今週末予選大会があんだよ。んで、その調整」
そう答えたアオイを、重信は漫画を机の上にポンと置いてじいっと見下ろす。
「無口なハギを代弁するとさ、予選大会があるなんて初耳だぞ。だと思うな」
恵太が人差し指を立てて、自身満々にそう言うのを見て、美雪がすぐ隣で口を押えて笑いを堪えている。
余談だが、最近分かってきたことなのだが、この美雪という少女、ただの恵太の彼女という者ではないようだ。どうも、このところ巷で話題になっているあの種類の人間らしい。そう、”腐女子”と呼ばれるあの人達である。うまく隠してはいるが、重信にはそう考える確信があった。
偶然にも彼女が執筆した作品をネットで見つけてしまったときには、驚きと衝撃で凍りついてしまったものだ。なぜ彼女が作者だと分かったかと言うと、登場人物にアオイと恵太、シゲの三人が出てきていたからだ。恐ろしくて内容までは読んではいないが、あらすじからすると、主人公はアオイというツンデレ可愛い系男子で、どうも恵太とシゲとの三角関係がテーマらしかった。ちなみに、作者名は”みゆき”。どう考えたって、美雪本人としか考えようがない。
一見爽やか系真面目女子の美雪が、と正直重信も少しばかりショックを受けたが、このこと
を恵太やアオイには言うつもりはなかった。実際、重信自身だって、”ゲイ”だということを、皆に隠して生きてきたのだから。
彼女に妄想のネタに使われているなんて知りもしない恵太は、暢気なものだ。彼はまさに天然男に違いない。重信は彼に太鼓判を押してやりたいとこっそり思った。そして、BL小説ランキング一位に輝く作品を生み出しているこの美雪にも無言のままじいっと見下ろしてくる重信と、きらきらと目を輝かせて見つめてくる恵太と美雪にいたたまれなくなって、アオイがとうとう折れた。
「……れ、練習見に来る?」
「「「行く!」」」
即答だった。