セク・コン~重信くんの片想い~
しばらく気まずい沈黙が流れたが、大寺がそれを最初に破った。
「勘違いするな。塚本 アオイは、生物学的にも戸籍上も正真正銘の女だ」
そうはっきりと言い切られたとき、重信の中で何かが弾けた。
「誰が何と言おうと、アオイは男だ!!」
近くの机を思いきり蹴飛ばしたせいで、勢いよく机が床へ倒れ込み、耳をつんざくような金属音が薄暗い教室内に大きく響いた。それと同時、ものすごい埃が宙を舞う。
「へっ、こいつどっか頭おかしいんじゃねぇの?」
島田が、薄ら笑いを浮かべてぼやいた。
「……一つ話しといてやる」
すっかり平静を失っている重信に向け、大寺が静かな口調で言った。重信は、未だ収まり切らない怒りをなんとか抑え込み、大寺を睨み見た。
「俺は塚本 アオイの兄、塚本 圭司(つかもと けいし)の幼馴染みで、ガキの頃から二人のことは誰よりよく知っている」
そう言って、大寺はゆっくりと机から立ち上がり、静かに重信の目前へと歩み出た。
「あの家には母親がいない。アオイが生まれた直後に亡くなったそうで、父親が二人を男手一つで育ててきたんだと」
ふと昨日のアオイ宅の記憶が、重信の中で蘇った。
えらくさっぱりした印象を受けた家の中は、確かに女性的な色や香りは一切感じられなかった。あの家で重信がなんとなく感じていた違和感、それはまさにこのことが原因していたのだ。
「俺が言いたいことが分かるか? 萩本」んだ。
「アオイはな、赤ん坊のときからずっと男世帯で育ったんだ。で、ああなっちまった。ーーーと、少なくとも圭司と俺はそう思ってる」
彼の言っていることは嘘ではなかった。大寺が塚本家の苦労をたくさん見てきたことは確かだ。アオイのことをよく理解しているというのも、嘘ではないだろう。