セク・コン~重信くんの片想い~
「そういうハギはどうなんだよ? なんか予定あんのか?」
 何気ない問いに、重信は数回瞬きを繰り返し、しばらく沈黙する。
(イブの予定……?)
 勿論そんなものはない。恋人のいない重信にとって、クリスマスは別に特別な日という訳ではない。そりゃ子どもの頃には、家族でどこかへ出掛けたり、サンタがプレゼントを家まで届けてくれたりと、色々な楽しいイベントが待ち受けているものだったが、この年になれば、そうでもない。
 去年度は、恵太とゲーセンを梯子したり、ボーリング連続十ゲームをしてみたり、とそれなりの過ごし方をしていたものだ。けれど、今年は恵太に彼女ができたということもあって、そうはいかなくなった。
「昼寝とか」
 ふてくされて言った訳ではなく、単にダラダラと寝て過ごすのも悪くないと重信は思ったのだ。
「はあ?! お前、百歳のジジイみたいなこと抜かしてんじゃねぇぞ。せめてもうちょい何かすることあんだろ? 若いんだから、若さを楽しめ、若さを!」
 呆れたようにアオイが机に肘をつく。
「外寒いし、用も特にないし」
 そう言って再びちゅるちゅるとうどんを吸い始めた重信に、アオイはどうやらイラつき始めたらしい。
「することないだと?! ふざけんな、テメー!」
 箸を引ったくり上げられた重信は、ぽかんとしてアオイを見つめる。
「なんでアオイが怒るんだよ」
「うるせー! ハギがすることないとか抜かすからだろが!!」
 取り上げた箸を折る勢いで、アオイが突っかかる。 
「じゃあ何すればいいんだよ」
「ああそうかよ! オレの大会の応援に来る気は更々ないっつーことか!」
 
 しばらくの沈黙の後、
「……でも大阪だろ?」
と、重信が聞き返した。アオイの怒りの原因は、自分の試合よりも昼寝というどうでもよい用を優先しようとした重信に対してのものだ。
「一緒に大阪来りゃいい話だろ? どうせ暇してんなら、このアオイ様の専属マネージャーとして、応援に来い。というか、普通は昼寝よりかダチの試合を観に来ようとかすんだろ? ったくよ」
 すっかり不機嫌なアオイだったが、むしろ、重信の方はすっかり舞い上がっていた。

(イブにアオイと大阪!?)
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