セク・コン~重信くんの片想い~
「えらく楽しそうだな」
 ふと背後に嫌な気配がして、重信はおそるおそる振り返った。
「大寺さん……」
 一気に今までのテンションが下がってゆく。
 アオイは昨日の、重信が突然殴られるという出来事を目撃したばかりで、この大寺にはどこか不満そうな目を向けている。
 大寺の後ろには、いつものごとく島田と小柴もしっかりと控えていた。
 重信は、昨日の今日ということもあり、咄嗟に小柴から視線を逸らした。今は大寺よりも小柴と顔を合わせる方が重信にとっては気まずいところだった。
 そんな重信の様子を見て、小柴が可笑しそうに僅かに笑いを漏らす。

「誤解するな、アオイ。昨日、かっとなっていきなり萩本を殴っちまったんで、謝りに来ただけだ」
 どういうつもりか、大寺がアオイに先に弁解した。アオイの方は、不審そうに大寺をじっと黙ったまま見つめている。
「萩本、悪かったな。いきなり殴っちまって」
 大寺が重信の前に回り込み、そうはっきりと謝罪の言葉を口にした。

(なんのつもりだ……?? この人たちは、そう簡単に俺なんかに頭を下げたりしない。一体、何を企んでる……??)
 
 重信は、全く考えの読めない大寺の目を見返す。
「なんで急にハギを殴ったりなんかしたんだよ、大寺さん」
 アオイは大寺にずっと持っていた疑問点をストレートにぶつけた。
「アオイには言ってなかったが、萩本と俺とでちょっとした約束ごとをしたんだ。今回は、萩本がその約束を破った、それで俺が萩本を殴った。ただそれだけのことだ」
 概ね大寺の言っていることに誤りはない。けれど、重信と大寺との間にこの約束とやらは成立していない筈だった。
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