恋をしたのは澤村さん


「い、くじが、なかったっん、で、す」

好きって言って距離を置かれるのが怖かった。

「だ、から、澤村さん…っ」


今だけ言わせてくれませんか。
今だけ、この瞬間だけでも。

あたし、あなたのことが……。

涙が溢れるあたしの目を拭いながら澤村さんは笑った。
葵、ごめんな。って何回も言って笑ってくれた。

公園には灯りがなくて月明かりでしか澤村さんの顔が見えないけれどとても綺麗に見えて。
胸が痛いほど締め付けられる。

「すきです……」

ほぼ消えかけの声だったけれど澤村さんには届いたようで優しく微笑んでくれた。

「俺もだよ」


そう言って涙を拭う手が温かくて気持ち良い。
キスや抱き締めあうなんて恋人らしいことは出来ないけれど恋人にも成れないけれどあたしはやっとこの恋に終止符を打てた。

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