恋をしたのは澤村さん
第2章
楽しみ
「………いないなー」
駅へと歩く道にあるあのアパート。
あの日から時おり覗いてみるけど澤村さんに会えるわけもなく。
肩を落として学校へ行く日が多くなった。
*
「………別にさ、気になるだけで好きとかじゃ…」
言い訳のように紙パックのジュースを飲みながら目の前にいる楓香と友梨に相談する。
楓香はほわほわしていて少し小柄な守ってあげたくなるような女の子だ。つい最近肩まであった髪をボブに変えた。
たいして友梨は高身長で腰まである長い黒髪を下ろしている。雰囲気は大人っぽいが似合うようなお姉さん系女子。
そんな二人に私は相談をしていた。
「でも気になるんでしょ?
それって好きってことじゃないのかなぁ?」
「初めて会った人を好きになるなんてあたしにはあり得ないし」
想像しただけで鳥肌がたったあたしはストローから口を離した。
「……あたしは望月くんしか好きになったことないしなぁ」
楓香の彼氏はこの学校の生徒会長であたしたち二年生と同じ学年。
才色兼備の素晴らしい彼氏さんだ。
「………5つだよ?」
あのあと島津木くんに問い詰めたところ澤村さんはあたしより5つ年上の22歳だということが分かった。
「……世間的にダメでしょ。手を出す出されるにしても犯罪だって…」
「葵が好きならそれでいいじゃない」
さっきまで黙って様子を見ていた友梨が少し笑いながら言った。
さらりとした言い方はまるで、猫が好きなら買えばいいじゃないと言うようなニュアンスだった。