恋をしたのは澤村さん
人通りの少ないアパート前はもう薄暗くなっていて気休め程度につけられた外灯からパチパチと電気のはぜる音だけが聞こえた。
「………なに?」
そんな閑静な住宅路で澤村さんの声が一際大きく聞こえる。
「…………え、と…」
いざ行動したまではよかった。自分の欲求に従って行動したまでは良かったのに……。
なに?って聞かれてしまうと……。
「じ、自分でも分からないです…」
なぜ一歩を踏み出そうとしてこんなことになっているのか。
彼の匂いがこんなにも近いのか分からないけれど。ただ、ふんわりと漂う柔軟剤の甘い匂いが頭をクラクラさせた。
「…………わかんない、ねぇ」