恋をしたのは澤村さん
気がつけば人垣を掻き分けて無理矢理中へと進んだ。
どうしてこんなことに、何て思えるわけでもなくてただ澤村さんと一緒にいたい。
ただそれだけなのに。
「……澤村さん!」
「葵……」
困ったような顔つきで振り向いた澤村さんは両手をあげて立っていた。
まるで警官に銃を突きつけられた犯人みたい。
すぐにその手をつかんで人垣をでる。
この人は渡さない。
渡したくない。
困惑と避難の声が後ろから聞こえる。
気にしない。
「澤村さん、」
私、好きになっちゃったみたいです。
澤村さんのこと。
何て言えるわけでもなく。
ただ笑ってごまかした。