恋をしたのは澤村さん
「……久しぶりです、澤村さん」
煩いくらい心臓がばくばくと鳴ってるのに、声は酷く落ち着いてた。
いや、驚きすぎて、声が乾いてしまったのかも。
笑えてるのかな。笑えてるといいな。
ひきつる左頬を押さえながらその横を通り抜けようとした。
弁償とか、謝罪とか、いらない。
今すぐここから逃げたい。なんで、今会うのよ。なんで今なの。
「…っ…待てって……送るよ家まで」
「やめっ!…いい、です」
捕まれそうになった腕で澤村さんの手を払った瞬間になった乾いた音が悲しく響いたように聞こえた。
「………お前がそういうなら別にいいよ…」
「じゃあ、あたしはこれで…」
ペコリと頭を下げてカラオケルームへと足を運んだ。
もうただ、ただ疲れていた。