雨と電車とチョコレート
「おー、胡桃(くるみ)さんじゃん。おつかれ」
もうすぐ22時を回ろうというのに。
もう、このフロアには誰もいないと思っていたのに。
……ふいに、背後から聞き慣れた声がした。
胡桃。
それは、聞き間違えようもなく私の名前だ。
────それに、私の名前を呼んだ声も、聞き間違えようがない。
……彼の、声だ。
振り向くより先に、ドクン、と大きく心臓が揺れた。
ど、どうしているの!?
「染谷(そめや)くん、今日出張だったんじゃ……っ!」
昨日、急に決まったらしい大阪出張。
行く予定だった先輩がインフルでダウンして、染谷くんが代わりにいくことになったんだって、今日の朝、上司から聞いた。