雨と電車とチョコレート
会えてうれしいはずなのに、なんだか悔しいのは自分の女子力の低さゆえ。
せめて、せめてグロスくらい塗り直しとけばよかったよ……!
乾燥しかけた唇を、思わずキュッと引き結んで、そんなことを葛藤をしていた私だけど、そんなこと、染谷くんは知るよしもないことだ。
後悔しても遅い。
私と違って染谷くんはといえば、出張帰りとは思えないほど疲れの見えない、生き生きとした雰囲気だった。
表情だって、全然疲れてない。
染谷くんは同じ部署で唯一の同期だから、入社してから一緒に成長してきたつもりだけど。
入社してそろそろ2年。
なんだか最近は同期というより先輩みたいな落ち着きを見せてきた彼は、なんだか頼もしいんだ。
仕事だって、すごく楽しそうにやるしね。
染谷くんがいるだけで不思議とフロア全体の雰囲気が明るくなる。
「やっぱこっちもさみーな。暖房止まってんの?」
ふるふると、纏ってきた寒さを振り払うかのように軽く頭を振った染谷くん。
彼は来る途中に買ってきたらしい缶コーヒーを開けながら、私のとなりの席に座った。
私も、反射的に椅子の方向をくるりと回して染谷くんの方に膝をむける。