雨と電車とチョコレート
プシュッという、缶があく音が、ふたりだけのフロアにはやけに大きく聞こえた。
彼が缶を持つ手が赤くなっているのを見て思わず、うわあ、と声が漏れていた。
「手、冷たそうだねー。外寒いんだろうね……、暖房は、節電だって。21時くらいには止まってたよ」
「まじか。つら」
「ほんとにね。指冷た過ぎて死にそう」
「どれ」
……そう言って。
ゆっくり伸ばされてきた手を、私は避けることなんかできなくて。
見た目は赤くて冷たそうな手。
だけど、ホットコーヒーの缶を持っていたせいか、触れた彼の指は思ったよりずっと温かかった。
「うわ、冷たっ!ちょ、取り敢えずコレ持っとけって。飲んでもいいから!」
一瞬だけ触れて離れていった手。
染谷くんは自分があけたばかりの缶コーヒーを私の手に無理やり持たせてきて、されるがままに両手で缶を握った私の手の上から、キュッと自分の手を重ねてきた。
かあああっ、と手よりも顔が熱くなる。
……もう、本当に困るよ。
どうして簡単にこういうこと、できるの?