雨と電車とチョコレート


プシュッという、缶があく音が、ふたりだけのフロアにはやけに大きく聞こえた。


彼が缶を持つ手が赤くなっているのを見て思わず、うわあ、と声が漏れていた。


「手、冷たそうだねー。外寒いんだろうね……、暖房は、節電だって。21時くらいには止まってたよ」

「まじか。つら」

「ほんとにね。指冷た過ぎて死にそう」

「どれ」


……そう言って。


ゆっくり伸ばされてきた手を、私は避けることなんかできなくて。


見た目は赤くて冷たそうな手。


だけど、ホットコーヒーの缶を持っていたせいか、触れた彼の指は思ったよりずっと温かかった。



「うわ、冷たっ!ちょ、取り敢えずコレ持っとけって。飲んでもいいから!」


一瞬だけ触れて離れていった手。


染谷くんは自分があけたばかりの缶コーヒーを私の手に無理やり持たせてきて、されるがままに両手で缶を握った私の手の上から、キュッと自分の手を重ねてきた。


かあああっ、と手よりも顔が熱くなる。



……もう、本当に困るよ。

どうして簡単にこういうこと、できるの?

< 44 / 51 >

この作品をシェア

pagetop