雨と電車とチョコレート


鍵を受け取りながら、そんなことを言った先生に、私は思わず笑ってしまった。



「ないですよ。そういうのは奥さんに言って下さい」


「おっと。手厳しいな。でもまぁ、そうするよ。おつかれさん」


「はい。さようなら」



私は職員室を出て、思わず一つ息を吐いた。




……チョコレート。



無意識のうちに、ぎゅ、と肩に掛けた鞄の持ち手を握り締める。



2月14日。


好きな男の子に、チョコレートを渡す日。





……好きな男の子、か。



「……」



ふう、ともうひとつ息を吐いた。



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