蓮華〜流レルママニ〜
「雨、酷いし…そこの…病院に入りませんか…?」
普通なら、雨の日に傘も差さない、こんな人は見てみぬフリをする…
でも、自分と重なるその姿に、どうしても放っておけないって思わせた。
「傘…持ってきましょう…か…?」
必死に声をかける私の声が聞こえないのか、男は黙ったままだ。
私は一度病院に走り、傘を二つ借り受け、すぐさま戻ってきた。男はまだ、そのままでいる。
「あ、あの…傘…使って下さい…」
一つは自分の手に持ち雨を遮り、もう一つを差し出した。
するとやっと、視線だけこちらに向いた。が、一瞬の後、また前を向き直す。
でも、その目は見覚えがあった。そこで、ようやく目の前に立つ男が誰なのかに気づいた。
「…天海…先パイ…!?」
その私の言葉にまた、視線だけこちらに流す。おそらく名前を呼ばれた事に疑問を持ったんだろう。
その反応に、バスケ部である三年の天海 蓮先パイだと確信し、もう一度傘を差し出す。
「…先パイ…傘…使って下さい…風邪ひきますよ…?」
しかし、今度はギロリと睨みつけた後、差し出すその手を払い…
「何なんだオマエっ…!?俺に構うなっ!!」
やっと口を開いた第一声は、私に向けて放つ罵声だった。
それは私を認識してかどうか定かではないけど、私の知る温厚な蓮先パイとは違い戸惑った。
その後は、いくら声をかけても終始無言のままだった。
これが、
野に咲くナバナと
散り蓮華…
一つの『流れ』の
始まりだった。
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