蓮華〜流レルママニ〜


「れ〜君、れ〜君」

階段を登る俺の後から、しつこく声をかけてくる。

俺の名前は蓮で『れ〜』じゃない…
これも何度言っても変わらない。幼い頃に覚えたての言葉を大きくなってもそのまま間違って使うという、よくあるパターン……だ。

「れ〜君って!お姉ちゃんもね〜、いい歳なんだから早く彼氏欲しいと思ってると思うよ〜」

その言葉を背中で聞きつつ、

「…あのな…千尋ちゃん、恋愛なんて人に促されるもんじゃないからな」

と、妹を諭す兄になったつもりで答える。


葵家の二階はトイレの他に3つ部屋があり、いずれも子供部屋になっている。

《〜ちぐさ£σσм〜》
と書かれた木目の板が掛かる千草の部屋の前に立ち、ノックをしようと左手を差し出すと、

「ダメダメっ」

すぐ隣りの自分の部屋の前で止まる千尋が小声でボソッと呟く。

目をやると、千草の部屋のドアに向かって人差し指を突き出しながら手をスライドさせるように振っている。

その顔は正に「ノックしないで、そのまま入っちゃえ」
…みたいな顔だ。
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