蓮華〜流レルママニ〜
千草
ガチャ…
パタン。
幾度となく足を運んだ…この部屋。
決して広くない六畳一間の間取り。
入ってすぐの右手側の中央にはテレビがあり、その両脇にCDやDVD、雑誌などがきちんと収納された棚が並ぶ。一目見れば、何に興味があり、どんな趣味をもつのか分かる程…
東側に当たる目の前には小窓があり、少しだけ開いたそこからは、もうすぐ夏を迎えるとは思えないような心地よい風が入り込んでくる…
その窓を見て、不意に昔を思い出し微笑んでしまう。
まだ小学生の頃、此処は弟の陽輝の部屋だった。当時の千草の部屋は、現在の陽輝の部屋に当たり、大喧嘩の末に入れ替わる事になった。
その喧嘩の理由は…
「う…ん…」
ハッとして、左手側に目をやる。
そこには、俺の膝程度の高さのシングルのベッドで桜色の薄い掛け布団を纏い、眠っている千草の姿があった。
部屋を入って…思わずボーっとしてしまってた…
この優しい空間に…
「ちぐ…」
声を掛けようとして、止めた。
俺に気付いて声を出したかと思ったが、どうやら寝返りを打っただけのようで…
その寝顔を見た瞬間、起こす事をためらった。
具合が悪くて学校を休んだとは思えない程、爽やかな顔をしてる…