蓮華〜流レルママニ〜
沈む太陽
ガタガタ…。
風が窓を揺らした。
立ち上がって、呼ばれるように、窓の方に歩み寄ると、カーテンを開いた。
西日が射し込む―…。
沈んでいく太陽を眺めていると、
…―ふと昔の記憶が蘇ってきた。
…この陽輝の部屋が、まだ千草の部屋だった、小学生時代のあの頃…
俺と陽輝がいつものように遊んでいると、突然千草が「部屋を替えて」と言ってきた。
いきなりの事に、渋る陽輝をよそに、千草は泣き出してしまった。
それでも陽輝も譲らなかった。部屋を替えて、何て言う千草を理解できなかったのだから当然だ。
口論の最中、おばさんが仲裁に入ってきて、千草に理由を問い詰めた。
『西側は太陽が沈むからイヤ』
それを聞いた、当時の俺も陽輝も理解できなかったが、唯一人、千草の言い分をおばさんだけが理解した。
結果、泣き止まない千草と、おばさんの一存で、部屋を入れ替える事になった。
千草の部屋は、現在の東側の部屋に移った。
そこは…
『太陽が昇る』部屋。
あの頃、理解できなかった俺も今なら解る。
あの頃は、千草の余命を宣告された頃だ。
今でこそ、そんな素振りを微塵も感じさせない千草も、堪らなく苦しかったんだろう。
太陽が沈む、という自然の摂理が、物の終わりを現すようで、
堪らなく寂しかったんだろう…―。
流奈編 其ノ弐へ