real world
あまりにも見つめてくるから、動けなくなった。



「わ…た…」



何か言おうとしている。何だろう。



「花音?なにを…」



−コンコン。



「悠樹。鞄。それから、連絡。」


「直人。サンキュー。上杉は?」


「いるよ。外で待ってる。かなり無理してたからな今日。」


「そうだな…連絡は?」


「特になかったな。模試の対策と宿題は忘れるなって事ぐらい。」



ホント実力主義だよなこの学校。花音にとってはちょうど良いかもしれないけど。



「花音は?どうだ?」


「9度8分。普通なら倒れているね。」


「そんなになのか!?」


「うん。」



直人は花音をみた。そういえばさっき何を言おうとしていたのだろうか。


今は眠っているというより意識を落としていた。



「なぁ、悠樹。花音がどうしてこんなにすぐしょっちゅう倒れるか知っているか?」



「いや…そういえば眠るのは恐いとか、さっき。」


「眠るのが、恐い、か…そうなのかもな。」


「どういうことだ?」


「花音はね、こうやって意識を落とすまで自分からは眠らないんだ。」



は…?


つまり、と直人は続けた。



「あの事件から、花音は眠らなくなった。だから今は…」


「今は?」


「薬に…頼っている。いわゆる睡眠薬だな。」



−眠るのが、恐い。−



彼女は一体、どこまで現実に縛られているのだろう。



僕は花音を解放できる自信がある?


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