real world
アイドルらしい綺麗な顔立ちをしている彼を見た瞬間、さっきまで響いていた声が消えていった。



『−生きるのがつらいなら、僕が花音のそばにいる。−』



いつか彼が言ってくれた、あの言葉。今でも心に残っている。



「寝てなきゃダメだろ!まだ熱下がってないんだから!」


「ご…めん。喉が渇いて、立てなく…」


「わかった。持って行くから…立てないのか。なら、わるいけど持ち上げるぞ?」



「え…?ひゃっ!悠樹君!?」



いとも簡単に持ち上げられてしまった。


しかもお姫様抱っこだし。


み、密着してるし−!?


緊張しながら悠樹君に体をあずけていると、彼の身体から優しい香がして心地よかった。


だからかな、布団に下ろされたとき少し寂しかった。



「よし、じゃあ飲み物と食事取ってくるから、大人しく寝てなよ?」


「食事って…」



誰が作ったやつ?



「お粥だよ。僕が作った。料理は結構好きだからね。じゃ、ちゃんと寝てろよ。」



「う、うん…」







どうしてそこまでしてくれるんだろう。さっき気がついたけど、おでこには冷えシート貼ってある。



「おまたせ。持ってきたよ。食べられそう?」


「うん。ありがとう。あれ?」



そしてこれも今気付いた。


私、いつ着替えたっけ…?


まさか、



「あの…悠樹君。着替えって…」


「あ、あぁそれ?花音をここに連れてくる途中に病院に寄って、着替えさせてもらったんだ。」


「あの、でもこれどこで手に入れたの?私のじゃないし…」


「妹のだよ。ちょっと借りた。」


「妹、いたの?なんか悠樹君ってお兄ちゃんてイメージないなぁ…」


「ひどいなそれ。」



そう言って、彼はどこか寂しそうな顔をして笑った。



あぁ、また、私には言えない事情があるんだね。


彼が作ってくれたお粥は熱くて、おいしかった。
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