real world


「悠樹君今日仕事は?」

「深夜に一個だけ。」


「そういえば、海斗君、元気?」


「うん。心配だったけど、うまくやってるよ。あいつには、悪いことしたなぁ…」



海斗は恋奈を射殺した犯人が捕まったという以外、何も話してない。


僕ら繋がりの人間全員に事情を話す訳にはいかないから。



「…知らなくていい事も、あるよ。」


「そうだね…。」



死んでしまった者はかえらない。


命はひとつで、



僕らは不安定な幻の上を歩いている。



ほんのちょっとしたことで、現実に堕ち、


辛さを知る。



生きるのが怖くなる。




でも、


それでも、



「悠樹君。」


「ん?」


「あがってく?」



目の前には花音が借りているあのアパート。


もうこんなとこまできてたんだ。



「そうだなぁ…仕事ここから直で行こうかな。」


花音と、一緒にいたいから。



「ホント!?」


「うん。」



子供みたいにはしゃぐ花音を、



この先



手放す事なんてないんだなと思うと、



ちょっとの安心感と、



手のひらサイズの幸せが、



僕の目には輝くようにみえた。



< 297 / 330 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop