real world
彼女は去年まで、強いパニック障害を持っていたと、悠樹が言っていた。
彼女の両親は、もう3年も前に殺され、亡くなっているとも聞いていた。
「海斗君…元気そうで何よりだね。」
「そうだな。俺は元気だ。」
「恋奈ちゃん、喜んでるよきっと。」
「だろうな。」
俺はこの娘が苦手だ。
なんでも見抜いてしまう不思議なほど強力な勘。
すべてを自分のせいにしてしまうぐらいの正義感。
恋奈もそうだったから。
彼女を見ると、恋奈を思い出す。
「生きてたら、もう高校2年生になるね。」
恋をして、
いろんな事に悩んだり、
ケンカしたり、
友達と笑ったり、
「恋奈は死んじまった。生きてたら、なんて、考えない方がいい。」
俺は彩野さんにそう言った。
気付いてるんだろ?
俺が、恋奈が死んでから1回も泣いてない事。
別に、我慢してる訳じゃない。
確かに、
悲しいよ。
だけど、決めたんだ。
泣かない。
泣かないでって、恋奈が言ってくれてる気がするから。
「泣いても…いいんだよ?哀しいなら、泣けばいい。そんな顔して、墓前に立たれても、恋奈ちゃんは困るよ。」
だから意外だった。
彩野 花音は、惜しげもなく涙を流しながら、そう言ったから。