real world



初めて泣いた。


久し振りの涙。



そうか。



いいんだ。


俺、



泣いてもいいんだ。




「さっき言った事、花音の受け売りなんだ。」




悠樹は彩野さんが水を汲んでくれている間に、そう言った。




「花音も、自分の両親の死に縛られていた1人だから。よく分かるんじゃないかな。恋奈が死んで、泣かなかった僕に、半年前そう言ったんだ。」


「おせっかいな奴。」


「恋奈に似てて?




向こう側に水を汲んだジョウロを持った彩野さんが見えた。


危なっかしくヨロヨロ歩いている。




「あー、まったく花音は無茶するんだから…」


「お前も人の事言えないだろ。」


「花音よりはマシだよ。」




そう言って悠樹は彩野さんの元へ駆け出して行く。




「過保護だなぁあいつも。」




2人は仲良くよりそって歩いて来る。



俺も、歩くか。



恋奈はそうやって過去になる。



でも、




忘れないから。




この先、俺が別の相手と恋に落ちて、家庭を持ったとしても。




忘れない。




俺は、君を、愛していた事、




忘れるつもりはないよ。




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