夢の欠片
「今日さ、学校で子供が親を殺す事件があったって友達から聞いたんだけど、物騒な世の中になったよね」
「そうそう。私もテレビで観たわー。まだ犯人捕まってないらしいからねー。怖いよねー」
「怖いって言ったって、隣の県で起こった事件だよ? そこまで極端に怖がらなくても大丈夫だと思うけどね」
「そうかなぁ? 捕まらないためには何でもするんじゃないのー? ほら、お腹空いた時とかコンビニから盗み出したり、それこそ速く逃げるために自転車盗ったり、バスジャックしたり……人質なんかも」
「いやー、でもそんなことしたら逆に目立つでしょ。あ、でも生きるためには絶対に食糧は盗まないといけないのか。でもさすがに変装とかして働き口探すでしょ」
皿とスプーンが当たる音が時々鳴り、羚弥と真弓の雑談する声が由梨の耳に入ってきた。楽しげな話の内容ではなかったが、口調や雰囲気でやっぱり家族だなと思わされるものがあり、由梨はそれを間近で聞いているうちに、無性に羨ましく感じた。
果たしてこの中に自分は入れるんだろうかと、由梨は考え始めた。自分は明らかによそ者で、しかもさっきのことで印象が悪くなっているのに、自分が何かすることで受け入れてもらえるんだろうかと疑問に思ったのだ。でも、二人の親切に応えるために、頑張るって決めたんだと、由梨はたっぷりと息を吸い込み、長い時間かけて吐き出した。そして、力強く足を踏み入れた。
「これからお世話になります。よろしくお願いします!」
いざ入ると決めたはいいが、何をしたらいいか考えていなかった由梨は、すぐには何も思いつかず、気づけば頭を下げていた。何をするのか迷うには遅くて、どんな顔で見られてるんだろうと思うと怖くて、由梨は目をつぶって歯を食いしばった。
しばらくして、由梨の手から皿のスプーンが消えた。
「堅いかたーい! もう挨拶は終わったじゃん? 気楽にしていいんだよー」
まるで当たり前だと言っているような優しい口調の真弓の声が、由梨の耳に入ってきた。頭を撫でられ、目を開けた由梨の目には、再び涙が溢れていた。
既に受け入れられていた。自分が避けていただけだった。情けない。情けない……
「うぅ……」
由梨は涙を止めようと必死に目をこすったが、抑えきれなくて手をマスクのようにして顔を隠した。
そんな時、ほらよという低い声が由梨の耳に入った。由梨は指の間からそっと覗き、目の前に四角い白いものが差し出されていることに気がついた。それは四つ折りにされていた羚弥のハンカチだった。
「ほら、使いなよ」
由梨は鼻をすすりながら受け取ると、それを目に当てた。
「……制服、早く洗わねえとな」
由梨から視線をそらし、羚弥はそう呟いて部屋から出ていった。
一人残された由梨は、その場にしゃがみ込み、ただただ涙が止まるまでハンカチで目を抑えるのだった。
「そうそう。私もテレビで観たわー。まだ犯人捕まってないらしいからねー。怖いよねー」
「怖いって言ったって、隣の県で起こった事件だよ? そこまで極端に怖がらなくても大丈夫だと思うけどね」
「そうかなぁ? 捕まらないためには何でもするんじゃないのー? ほら、お腹空いた時とかコンビニから盗み出したり、それこそ速く逃げるために自転車盗ったり、バスジャックしたり……人質なんかも」
「いやー、でもそんなことしたら逆に目立つでしょ。あ、でも生きるためには絶対に食糧は盗まないといけないのか。でもさすがに変装とかして働き口探すでしょ」
皿とスプーンが当たる音が時々鳴り、羚弥と真弓の雑談する声が由梨の耳に入ってきた。楽しげな話の内容ではなかったが、口調や雰囲気でやっぱり家族だなと思わされるものがあり、由梨はそれを間近で聞いているうちに、無性に羨ましく感じた。
果たしてこの中に自分は入れるんだろうかと、由梨は考え始めた。自分は明らかによそ者で、しかもさっきのことで印象が悪くなっているのに、自分が何かすることで受け入れてもらえるんだろうかと疑問に思ったのだ。でも、二人の親切に応えるために、頑張るって決めたんだと、由梨はたっぷりと息を吸い込み、長い時間かけて吐き出した。そして、力強く足を踏み入れた。
「これからお世話になります。よろしくお願いします!」
いざ入ると決めたはいいが、何をしたらいいか考えていなかった由梨は、すぐには何も思いつかず、気づけば頭を下げていた。何をするのか迷うには遅くて、どんな顔で見られてるんだろうと思うと怖くて、由梨は目をつぶって歯を食いしばった。
しばらくして、由梨の手から皿のスプーンが消えた。
「堅いかたーい! もう挨拶は終わったじゃん? 気楽にしていいんだよー」
まるで当たり前だと言っているような優しい口調の真弓の声が、由梨の耳に入ってきた。頭を撫でられ、目を開けた由梨の目には、再び涙が溢れていた。
既に受け入れられていた。自分が避けていただけだった。情けない。情けない……
「うぅ……」
由梨は涙を止めようと必死に目をこすったが、抑えきれなくて手をマスクのようにして顔を隠した。
そんな時、ほらよという低い声が由梨の耳に入った。由梨は指の間からそっと覗き、目の前に四角い白いものが差し出されていることに気がついた。それは四つ折りにされていた羚弥のハンカチだった。
「ほら、使いなよ」
由梨は鼻をすすりながら受け取ると、それを目に当てた。
「……制服、早く洗わねえとな」
由梨から視線をそらし、羚弥はそう呟いて部屋から出ていった。
一人残された由梨は、その場にしゃがみ込み、ただただ涙が止まるまでハンカチで目を抑えるのだった。