夢の欠片
「羚弥君、起きなくていいの?」


ノックの音と共に、女性の声が耳に入り、羚弥はハッと身体を起こした。その天使のような声の主は由梨だった。


「学校遅れちゃうよ?」


起こしてくれたことに感動しながら、羚弥はパッと時計を見た。七時。まだ間に合う。


『ナイス! 由梨!』


そう思いながら着替えを済ませ、軽く伸びをした羚弥は部屋から出た。そして、入口付近に立っていた由梨を見つけると、手を握って礼を言った。


「由梨、本当にありがとう! 母さん起こしてくれないんだよ」


由梨が一瞬表情を歪ませ、羚弥は男嫌いだったことを思い出して慌てて手を引っ込めた。


「そ、そうなんだ……間に合う?」


「うん。あのさ、ちょっと頼みがあるんだけど……これからこの時間に毎日起こしにきてもらえないかな? どうも起きることができなくてさ」


その時、羚弥の耳にリビングの方から恐ろしい声が入ってきた。


「羚弥!! 目覚まし時計買いなさぁーい!」


「うわぁ!」


その声に驚いた羚弥は、鞄を持ち、逃げるようにして家を飛び出していった。
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