夢の欠片
ゆっくりとまぶたを開いた。そして、辺りを見渡す。
全体的に白を基調とした、いつもの明るい部屋。
「何だったんだ…」
寒いのと冷たいのを同時に感じ、着ていたTシャツを触ると、びっしょりと濡れていた。
あのリアルな夢のせいだろうか。怖くはなかったはずだが。
とりあえずTシャツを脱ぎ捨て、思いっきり身体を伸ばした。そして、一気に脱力して起き上がった。
Tシャツを拾って部屋を出ようと、ふと壁にかかっているアナログ時計を見る。
「やっべ!!」
九時十三分。俺が現在通っている秋篠高等学校では、既に一時間目が始まっている時間だった。
一瞬で朝にやるべきことを整理し、制服を持ち出して洗面所へ向かう。
その途中、廊下を挟んで反対側にある台所で母さんが料理をしているのに気がついた。
「おはよー」
母さんも俺に気がついたのか、笑いながら声をかけてくる。
「おはよーじゃないよ! 起こしてくれてもいいじゃん!」
母さんは表情一つ変えずに言った。
「なに言ってんのー? ちゃんと起きない羚弥が悪いんでしょ? 目覚まし時計だって買いなさいって言ったのに買わないしー。高校生にもなって自分で起きられないなんて恥ずかしいよー?」
「っ……」
何も言い返すことができなかった。
「すみません…」
「フフッ」
子供扱いされているような気がして悔しくなったが、こんなことをしている場合じゃないとすぐに洗面所へ向かった。
Tシャツを洗濯機に投げ入れ、素早く他の着ている服も放り込んだ。そして朝の日課であるシャワー、歯磨き、髪セットを終わらせる。それから部屋から鞄を持ってきてリビングへ。
「……。」
電話機を見て一瞬固まるも、ゆっくりと受話器を手にとる。見なくても押せるほど完璧に覚えた電話番号を入力し、通話ボタンに親指を持っていく。そして、耳へ近づける。
プルルルルルルル
呼び出し音が何度か続き、若い女性の声が耳に入った。
「はい、秋篠高等学校です」
このやり取りが面倒なんだよ。変な罪悪感が…。
しかし、俺は冷静に呼び出す際の決まり文句を口にしていた。
「一年一組の遠矢羚弥です。山辺先生はいらっしゃいますか?」
受話器の向こうで所在を確認する声がした後、再び若い女性が電話に出た。
「現在、授業中ですので、電話に出ることはできません。私の方から伝えておきます」
「そうですか。寝坊したので遅刻しますと伝えておいてください」
「分かりました」
「それでは失礼します」
受話器を置くと同時に、大きく息を吐いた。学校への電話は大嫌いだ。何度やっても緊張と面倒さが付きまとう。
やり取りを見ていたのか、母さんが「お疲れー」とにこにこしながら近づいてきた。
「何回もやってんだから慣れればいいのにー」
俺は思わず、「いやいやいや」と手を横に振りながら自分の行動を正当化しようとした。
「母さんだって昔は嫌な思いでやってたんじゃないの?」
甘いわねー、と母さんは鼻で笑った。
「私は羚弥と違って遅刻なんかしないもーん。それに、電話が嫌いなんてまだまだ子供ね」
「くっ……」
何も言い返せないことはこんなにもキツいものか。思わず鞄を背負って背を向ける。
「もう行くのー?」
「うん」
「ふーん。気をつけてねー」
「うん。んじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃーい」
手を振ってきた母さんに手を振り返し、俺は憂鬱な気分で家を出た。
全体的に白を基調とした、いつもの明るい部屋。
「何だったんだ…」
寒いのと冷たいのを同時に感じ、着ていたTシャツを触ると、びっしょりと濡れていた。
あのリアルな夢のせいだろうか。怖くはなかったはずだが。
とりあえずTシャツを脱ぎ捨て、思いっきり身体を伸ばした。そして、一気に脱力して起き上がった。
Tシャツを拾って部屋を出ようと、ふと壁にかかっているアナログ時計を見る。
「やっべ!!」
九時十三分。俺が現在通っている秋篠高等学校では、既に一時間目が始まっている時間だった。
一瞬で朝にやるべきことを整理し、制服を持ち出して洗面所へ向かう。
その途中、廊下を挟んで反対側にある台所で母さんが料理をしているのに気がついた。
「おはよー」
母さんも俺に気がついたのか、笑いながら声をかけてくる。
「おはよーじゃないよ! 起こしてくれてもいいじゃん!」
母さんは表情一つ変えずに言った。
「なに言ってんのー? ちゃんと起きない羚弥が悪いんでしょ? 目覚まし時計だって買いなさいって言ったのに買わないしー。高校生にもなって自分で起きられないなんて恥ずかしいよー?」
「っ……」
何も言い返すことができなかった。
「すみません…」
「フフッ」
子供扱いされているような気がして悔しくなったが、こんなことをしている場合じゃないとすぐに洗面所へ向かった。
Tシャツを洗濯機に投げ入れ、素早く他の着ている服も放り込んだ。そして朝の日課であるシャワー、歯磨き、髪セットを終わらせる。それから部屋から鞄を持ってきてリビングへ。
「……。」
電話機を見て一瞬固まるも、ゆっくりと受話器を手にとる。見なくても押せるほど完璧に覚えた電話番号を入力し、通話ボタンに親指を持っていく。そして、耳へ近づける。
プルルルルルルル
呼び出し音が何度か続き、若い女性の声が耳に入った。
「はい、秋篠高等学校です」
このやり取りが面倒なんだよ。変な罪悪感が…。
しかし、俺は冷静に呼び出す際の決まり文句を口にしていた。
「一年一組の遠矢羚弥です。山辺先生はいらっしゃいますか?」
受話器の向こうで所在を確認する声がした後、再び若い女性が電話に出た。
「現在、授業中ですので、電話に出ることはできません。私の方から伝えておきます」
「そうですか。寝坊したので遅刻しますと伝えておいてください」
「分かりました」
「それでは失礼します」
受話器を置くと同時に、大きく息を吐いた。学校への電話は大嫌いだ。何度やっても緊張と面倒さが付きまとう。
やり取りを見ていたのか、母さんが「お疲れー」とにこにこしながら近づいてきた。
「何回もやってんだから慣れればいいのにー」
俺は思わず、「いやいやいや」と手を横に振りながら自分の行動を正当化しようとした。
「母さんだって昔は嫌な思いでやってたんじゃないの?」
甘いわねー、と母さんは鼻で笑った。
「私は羚弥と違って遅刻なんかしないもーん。それに、電話が嫌いなんてまだまだ子供ね」
「くっ……」
何も言い返せないことはこんなにもキツいものか。思わず鞄を背負って背を向ける。
「もう行くのー?」
「うん」
「ふーん。気をつけてねー」
「うん。んじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃーい」
手を振ってきた母さんに手を振り返し、俺は憂鬱な気分で家を出た。