夢の欠片
家を出た瞬間に感じた凄まじい熱気。ただでさえ足取りは重いはずなのに、さらにそれを引きずる羽目になるとは。
ミーン ミーン ミーン
耳に付く騒がしい蝉の鳴き声。この鳴き声は風鈴と同じで、体感温度に作用するから嫌いだ。
そして、風が一切ない。湿度も高く、まるでサウナにいるような気分だ。
せめて何かを防ごうと、自然とギラギラした太陽に手をかざす。
「あっちぃ」
何もかも投げ出したくなる衝動に駆られ、心の中でも不満を吐き散らす。そして、次の考えが浮かんだ。
『そうだ、もう遅刻してしまったし、別に急ぐこともないよな?』
歩を進めるごとに強くなっていくその考えが、着実にペースを落としていく。
とはいえ、登校という形態は崩していなかった俺に、悪知恵がとどめを刺した。
『授業中に教室に入るよりも休み時間に入った方が気まずくないよな……?』
怠さというのは、こういう時に活躍するものだ。俺の決断は早かった。ふと見た先にあった公園に足を向けた。
ブランコを見つけ、鞄を肩から外す。そして、目を離さないまま近くの地面に置いた。
なぜか感じる危機感。そういえばブランコに乗ったことあったっけ。ブランコというものは知っているが、そこらへんが曖昧だ。
まあ乗れば分かるでしょ、という考えのもと、ブランコに腰をかける。と同時に、上半身がガクンと前のめりになり、反射的に両手で鎖を掴んだ。
「っぶねぇ…」
ヒヤヒヤしながらもブランコへの好奇心は治らない。とりあえず地面から足を離したり、ゆさゆさ身体を揺らしたりして多少の安全を確認した後、上へ漕ぎ始めた。
だいたい高く漕いだところで足を動かすのをやめ、少しの間ちょっとした感動の余韻に浸る。
ふと、あと何分で公園を離れなければならないのか気になり、起きた時間から今までの行動にかかった時間をおおよそで計算してみた。
このままいけば、二時間目と三時間目の間に行くには……だいたい三十分くらいの計算になる。結構長いな。
でも、このブランコのおかげで少しは時間を潰せそうだな、と再び上へ上へと漕ぎ始める。
ガサッ
突然、後ろから木が大きく揺れる音がして、反射的にその方向を振り返った。それで誤って片手を鎖から離してしまった。
「ぬぉっ!?」
叫び声と共に、ガタン、ガタンとブランコが激しく揺れた。俺は自分が落ちてしまった事実よりも、目の前にいた人物の姿に呆気にとられ、その時は腰を打ったことにすら気づかなかった。
「お、お前、何で裸なんだよ……」
あまりにもあり得ない状況だった。視線の先にいたのは、同年代くらいの全裸の女性だったのだ。
「いや……」
彼女は俺を見て、小刻みに身体を震わせ始めた。それを見て即座に視線をそらし、ワイシャツを脱いで彼女の方へ投げた。
「それ着ろよ。よく分かんねえけどそのままはやばいだろ」
そして、体を完全に彼女に背けた。
放っておくこともできず、かと言って何をすればいいかも分からず、しばらく沈黙の時が流れる。三、四分は経っただろうかというところで、おそるおそる大丈夫かと訊いてみた。
「……うん」
まだワイシャツ一枚だから大丈夫ではないのだろう。ただ、少しでも事情を知らない限りはどうすることもできない。そう思い、話を切り出した。
「質問いいか?」
「……うん」
身体を彼女の方へ向け、できるだけ下を見ないようにして質問を開始した。
「何で裸だったんだ?」
彼女は下を向きながら小声で答えた。
「……男の人がいろいろやってくれるし、泊めてくれたりもするから」
……衝撃的だった。
「もしかしてさ、お前……家ないのか?」
「……うん」
昔の記憶を思い返しながら、きっと母さんなら…とすぐに判断した。
「行くよ」
俺は彼女の手を引っ張って無理矢理立たせた。彼女の手が小刻みに震えているのが分かったが、離すことなく、むしろ強く握りしめた。そして、そのまま手を引いて急いで家に引き返していった。
周りに人がいないのが幸いだった。
ミーン ミーン ミーン
耳に付く騒がしい蝉の鳴き声。この鳴き声は風鈴と同じで、体感温度に作用するから嫌いだ。
そして、風が一切ない。湿度も高く、まるでサウナにいるような気分だ。
せめて何かを防ごうと、自然とギラギラした太陽に手をかざす。
「あっちぃ」
何もかも投げ出したくなる衝動に駆られ、心の中でも不満を吐き散らす。そして、次の考えが浮かんだ。
『そうだ、もう遅刻してしまったし、別に急ぐこともないよな?』
歩を進めるごとに強くなっていくその考えが、着実にペースを落としていく。
とはいえ、登校という形態は崩していなかった俺に、悪知恵がとどめを刺した。
『授業中に教室に入るよりも休み時間に入った方が気まずくないよな……?』
怠さというのは、こういう時に活躍するものだ。俺の決断は早かった。ふと見た先にあった公園に足を向けた。
ブランコを見つけ、鞄を肩から外す。そして、目を離さないまま近くの地面に置いた。
なぜか感じる危機感。そういえばブランコに乗ったことあったっけ。ブランコというものは知っているが、そこらへんが曖昧だ。
まあ乗れば分かるでしょ、という考えのもと、ブランコに腰をかける。と同時に、上半身がガクンと前のめりになり、反射的に両手で鎖を掴んだ。
「っぶねぇ…」
ヒヤヒヤしながらもブランコへの好奇心は治らない。とりあえず地面から足を離したり、ゆさゆさ身体を揺らしたりして多少の安全を確認した後、上へ漕ぎ始めた。
だいたい高く漕いだところで足を動かすのをやめ、少しの間ちょっとした感動の余韻に浸る。
ふと、あと何分で公園を離れなければならないのか気になり、起きた時間から今までの行動にかかった時間をおおよそで計算してみた。
このままいけば、二時間目と三時間目の間に行くには……だいたい三十分くらいの計算になる。結構長いな。
でも、このブランコのおかげで少しは時間を潰せそうだな、と再び上へ上へと漕ぎ始める。
ガサッ
突然、後ろから木が大きく揺れる音がして、反射的にその方向を振り返った。それで誤って片手を鎖から離してしまった。
「ぬぉっ!?」
叫び声と共に、ガタン、ガタンとブランコが激しく揺れた。俺は自分が落ちてしまった事実よりも、目の前にいた人物の姿に呆気にとられ、その時は腰を打ったことにすら気づかなかった。
「お、お前、何で裸なんだよ……」
あまりにもあり得ない状況だった。視線の先にいたのは、同年代くらいの全裸の女性だったのだ。
「いや……」
彼女は俺を見て、小刻みに身体を震わせ始めた。それを見て即座に視線をそらし、ワイシャツを脱いで彼女の方へ投げた。
「それ着ろよ。よく分かんねえけどそのままはやばいだろ」
そして、体を完全に彼女に背けた。
放っておくこともできず、かと言って何をすればいいかも分からず、しばらく沈黙の時が流れる。三、四分は経っただろうかというところで、おそるおそる大丈夫かと訊いてみた。
「……うん」
まだワイシャツ一枚だから大丈夫ではないのだろう。ただ、少しでも事情を知らない限りはどうすることもできない。そう思い、話を切り出した。
「質問いいか?」
「……うん」
身体を彼女の方へ向け、できるだけ下を見ないようにして質問を開始した。
「何で裸だったんだ?」
彼女は下を向きながら小声で答えた。
「……男の人がいろいろやってくれるし、泊めてくれたりもするから」
……衝撃的だった。
「もしかしてさ、お前……家ないのか?」
「……うん」
昔の記憶を思い返しながら、きっと母さんなら…とすぐに判断した。
「行くよ」
俺は彼女の手を引っ張って無理矢理立たせた。彼女の手が小刻みに震えているのが分かったが、離すことなく、むしろ強く握りしめた。そして、そのまま手を引いて急いで家に引き返していった。
周りに人がいないのが幸いだった。