夢の欠片
「じゃあ、買い物行ってくるね。この前冷蔵庫の中すっからかんになっちゃったから。留守番よろしくね、由梨ちゃん」


「うん、行ってらっしゃい」


お姉ちゃんが仕事に出かけ、家内では私が一人になった。


『特にやることもないしなー。暇だなー。電話する人もいないし……そうだ! テレビを観よう』


しばらく悩んだ末に、そう思い立った私は、リモコンを手にし、電源と書かれたスイッチを押した。


「未だ逃亡中の、親を殺害した高橋裕也容疑者が……」


テレビに映ったのは、ちょうど私が観たいと思っていたニュースの番組だった。外に出ないので、こうすることでしか情報を得ることができない。


決してそのために点けたわけではないけど、特にバラエティやドラマなどを観る気分ではなかったため、私はチャンネルをそのままにし、リモコンを置いた。


「……を盗まれたコンビニは、犯行場所からおよそ百六十キロ離れた地点にあり……」


『お姉ちゃんと羚弥君が話してた殺人事件ってこれのことか。本当に物騒だなぁ』


ピーンポーン


私が感慨に浸っている時、突然チャイムが鳴った。


私は、一応部外者のため、遠矢家の親族や友人、知人に知られると面倒なことになると考え、よほどのことがない限りは居留守を使おうと思った。


そこで、程度を確かめるために誰が来たのかを確認することにした。


「あ!」


インターホンという便利な物は設置されていないため、窓からこっそり玄関の方を覗いた私は思わず口を抑えた。


『まずいな……声……聞こえちゃったかな……』


私は即座にテレビを消し、物音を立てないように歩いて自分の部屋に行くと、息を殺して寝具の中に潜り込んだ。


『一週間もいられないかも……』


私はため息をつき、まぶたを閉じた。
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