夢の欠片
家に入る手前、息を整えながら、彼女に大丈夫だよとアイコンタクトをした。そして、ドアノブを勢いよく回す。


「母さん!」


彼女を素早く家の中に入れて、扉を閉める。落ち着かない様子の彼女を軽く制した後、もう一度母さんを呼んだ。すると、エプロン姿でおたまを持ったままの母さんが足早にやってきた。


「どうしたのー?」


そして、途端に目を丸くした。


「上半身裸!? いやいやいやワイシャツしか着てない女の子もいるし! あんた何やったの!」


それを全力で首を横に振りながら否定した。


「違う違う! 公園で泣いてたんだよ、この子。裸だったんだ。だから俺のワイシャツを着るように言ったんだよ」


母さんはきょとんとして、「そうなの?」 と訊いてきた。


すぐに理解してもらえるように首を縦に三回ほど振り、早速話を切り出した。


「それより母さん、この子家がないみたいなんだ。しばらく泊めてあげてもいいよね?」


母さんは目をパチパチさせてから、にこっと笑った。


「そういうことなら全然オッケーよー」


その言葉を聞いて安堵し、ホッと息をついた。


母さんは「お家が無いのかー」と言いながら彼女に近き、言葉を投げかけた。


「ねえ、お名前は何て言うのー?」


彼女は少し下を向き、小さな声で答えた。


「……咲森、由梨です」


「由梨ちゃんかー。可愛い名前だねー。おばさんは真弓っていうんだけど、別にどんな呼び方でもいいよー。んーと、じゃあ……いくつ?」


「十六です」


それを聞いて、自分のイメージと違っていたことに驚いた。


「えー!? 俺より歳上かよ……」


「男が女の歳でいちいち反応するんじゃなーい」


「…はい」


「じゃあ由梨ちゃん。とりあえず中入ろっか。そんでもって、頑張ってこの家に慣れていこっか。そしたら、少しずつお互いのこと知っていこうねー!」


「……はい」


「じゃ、ついてきてー」


由梨を連れてリビングの方へ歩いていく母さんの背中を見て、ふぅと息をついた。そして、大事なことに気がついた。


「あ、そうだ。ワイシャツ着てねえじゃん」


さすがに裸じゃ学校に行けねえわ、と部屋に戻り、新しくワイシャツを着た。


あとは母さんに任せておけば大丈夫。


「頼んだよ。母さん」


そう小声で呟いて、再び家を出た。
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