夢の欠片
羚弥君がいつまで経っても降りて来ないので、「温め終わったよー?」と大きな声を出してみると、制服のままで走って戻ってきた。


「何してたの?」


「ああ、ちょっとな。それより食おうぜ」


「う、うん」


最近羚弥君が変な気がするのは気のせいだろうか、と少し思って、箸を持った。


「いただきまーす」


「いただきます」


お姉ちゃんがいない夕食。そう思うと、変に羚弥君を意識してしまう。さっきの帰り道では何ともなかったのに、今になってドキドキしてきた。こういう時、どんな話をしたらいいんだろう。


「なあ、由梨」


急に話しかけられたせいか、身体がビクッとなった。


「な、なに?」


「もしもの話だけどさ、自分の母さんが病気になって介護が必要になったとするじゃん。そうなったら何が何でも傍にいたいと思える?」


「え、うん」


いきなり変な質問だなーと思いながら、当たり前の反応をする。


「普通、めんどくさいとか嫌だとか思わないよな?」


「うん。だって親だもん」


「……だよな」


それから羚弥君はずっと悲しそうな顔をしていた。いろいろ話しかけてもみたけど、どこか上の空で、何を話しても曖昧な返事のような気がした。


そのままその状態から変わることはなく、ご飯を食べ終わると静かに「ごちそうさま」と言って、皿を台所に置いた後、すぐに部屋を出ていってしまった。


なにか悩み事でもあるのかな、と私は相談役になれたらいいなと思っていた。


茶碗を洗っていると、お姉ちゃんが帰ってきた。


「ただいまー!」


「おかえりー」


羚弥君からの返事はなかった。


「あら、羚弥は? 寝ちゃったのかなー。いやー、それにしてもテレビって気持ちいいよねー」


あまり共感できないことを言いながらリビングに入ってきたお姉ちゃんは、私を見ると「入学どうだったー?」と笑顔で訊いてきた。


「クラスの雰囲気もいいし、昔の友達にも会えたから、結構楽しく過ごせそうだったよー」


「へー! 良かった良かったー。あとは恋くらいかなー」


「な!?」


相談したいとは思っていたけど、唐突に来られると変な反応をしてしまう。


「めちゃめちゃ悩んでるでしょー」


「うん……」


「でもその前に心のケアが必要かもしれない。じゃ、ちょっと疲れたから私は寝るわー!」


「あ、うん」


少しお姉ちゃんの言葉が気がかりだったけど、気にすることないかと最後の茶碗を洗い終え、私は部屋に戻った。
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