夢の欠片
『俺は何してるんだろう』


ベットの上で、ずっとそんなことを考えていた。考えたって仕方がないのに、考えずにはいられなかった。


誰かを憎んでる俺。逃げ出した俺。この世からも逃げ出そうとした俺。


夢の中……過去の俺は最低なことしかしてないじゃないか。


俺は右腕を目の上に当てた。


『過去を知れば知るほど、自分が嫌になってくる』


俺は開けていた目を閉じた。すると、フラッシュバックのように、母さんが俺の自殺を止めてくれた時のことが映像として鮮明に頭の中に流れてきた。


『こっちに来なさい』


そう言って行かなかった俺に近づき、俺を抱きしめてくれる母さん。


『大丈夫だから。もうあなたが幸せになるまで離さないんだからね』


ずっとホームレスの生活をしていて臭いはずの俺の鼻に、母さんの女性らしい良い匂いが入ってくる。


温かい、俺はそう思って目を閉じた。


『ねえ、私は真弓っていうんだ。君の名前も教えてくれない?』


『分からないんだ。れ……や? そこまでだけ思い出せるんだけど』


『れとやかー。よし、れいやってのはどう? 漢字は後で当ててあげるからさ、仮の名前として!』


『れいや……いいよ』


『じゃ、私の家に帰ろっかー。事情は後で訊くから、とりあえずご飯食べよっ! これでも自信あんのよー』


『……うん』


その日のご飯は美味すぎて泣いたんだっけ……


思い出して俺は笑った。


ああ、眠くなってきた。母さん、母さんのおかげで俺はこうして安心して寝れるんだ……
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