金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

……そういえば。

先生を悪く言う岡澤に腹が立って、色々言った気がする。

改めてお礼を言われるほどのことは言ってない気がするけど……



「その時からずっと涙が出そうだったのをこらえていたんです。
初めて二年の教室で出席を取ったとき、窓の外ばかり見て僕を無視していた三枝さんが、僕のことをそんな風に思うようになってくれたんだと、担任として感動してしまって」



先生はまた泣けてきたのか、鼻をズッとすする。


思えば、あの頃の私の先生に対する態度はひどいものだった。


今なら、それがわかる。

先生のおかげで。



「……帰りましょうか。車を返すのがあまり遅くなると、木村先生にどやされそうだ」



私はクスッと笑ってうなずき、先生の後について歩く。

途中で振り返ってもう一度、一面の菜の花に目を向けた。


夕陽に映える黄色の群れが心地良さそうに風に揺れているのを見ると、私の心も穏やかにそよぐ。


今日から、新しい私。


きっとこれから素敵な毎日になる――……



「三枝さん?」


「今、行きます」



軽やかな足取りで、私は車に乗り込んだ。


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