金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
家まで送り届けてもらうと、私はまずお母さんに全てを報告した。
お母さんは私を抱き締め、背中をなでながら「よく頑張ったわね」と何度も言ってくれた。
そして、恩田先生に家まで送ってもらったことを説明すると、お母さんはぱっと私から体を離して口を尖らせた。
「どうしてすぐ帰らせちゃったのよぉ、お母さん先生に会いたかったのに」
「車、借り物で……すぐ返さなきゃならなかったから急いでたの。っていうかお母さん……まさか先生に本気?」
「そんなわけないじゃない。本命はいつだってお父さん、先生は浮気よ」
「あー……はいはい」
お母さんの冗談を適当にあしらって、二階の自分の部屋へ入った。
制服から部屋着に着替えて、ベッドにぽすんと身を沈める。
――菜の花、きれいだったなぁ。
目を閉じると黄色い花がまぶたの裏で揺れた。
今までなら儀式をしていた時間に、こんなに穏やかな気持ちでいられるなんて信じられない。
ありがとう、先生……
そう胸の内で呟いた私は、ご飯も食べずにそのまま眠ってしまっていた。