金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜

ザクロ


勉強は嫌いな方ではないのに、今まで男の先生の授業はどうしても集中できなかった。

だけど日が経つにつれにその状況は改善され、数式も英単語も化学式も、今はすんなりと私の頭に入ってくる。


ある日、授業中にまとまり切らなかったノートを休み時間に書いていると、有紗がそばまでやってきた。



「――千秋のノート、すご!これはテスト前に貸してもらわなきゃね」


「ふふ、高いよ?」


「購買のイチゴオレ、三日分でどうよ」


「うーん、焼きそばパンもつけて」


「くぅー、千秋さん商売上手!」



そんなくだらない冗談で笑い合っていた時だった。



「ちーあーきーちゃん」



聞き覚えのある声に名前を呼ばれ、私は思わず、身体を硬くした。


……今さら一体、何の用?



眉間にシワを寄せた有紗が私に言う。



「……千秋は、ここに居て。私が追い払ってくる」



有紗はスカートをひるがえし、教室の扉に寄りかかるオレンジ頭の元へと大股で歩いて行った。


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