金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
そんな時、助け船を出してくれたのは……恩田先生だった。
「――曽川くん、三年生は次の時間進路説明会じゃなかった?そろそろ体育館に行った方がいいと思いますよ」
「……へーい」
気のない返事をして、曽川先輩はようやく有紗に背中を向けた。
有紗はその後ろ姿にしっしっと追い払うような仕草をし、最後には舌まで出していて私は苦笑した。
ああ……良かった。
ほっとするのと同時にチャイムが鳴り、何事もなかったかのように恩田先生は授業を始めた。
「……雨など降るも、をかし。この場合、をかしは趣があるという意味になります」
枕草子の一節を朗読したあとで、“をかし”という単語の意味を説明する先生。
その穏やかな声で古典のきれいな日本語を読まれるのも、いとをかしだなぁ、なんて思った。
女子たちが、恩田先生の授業だけ張り切るのもわかる気がする。