金木犀の散った日〜先生を忘れられなくて〜
完全に不意をつかれた先輩は先生の後を追うことなく……
ゴールの正面で両足を揃えて飛ぶ先生を、ただ見ていた。
教科書通りの、きれいなフォーム。
細長い指から離れたボールは弧を描いて、ゴールへ向かっていく。
――お願い、入って……!
私の願いを乗せたボールはリングに触れることもせず、そのまま真っ直ぐに、ゴールに吸い込まれた。
「や……やった」
一気に足の力が抜けて、私は床にぺたんと座り込む。
「すごい!恩ちゃん!」
有紗は私をその場に残し、先生の元へ駆け寄った。
二人が話すのを遠巻きにぼんやり見ていたら、先生がこちらを向いた。
そして子供みたいに歯を見せて満面の笑みを浮かべると、私に向かってVサインを作った。
それを目にした瞬間、トクン、とあたたかいものが、胸に流れ込んだ。
それがじわじわと広がって、私の胸を熱くしていく。
なんだろ、これ……
嬉しいような、恥ずかしいような、切ないような……
一言では表せない、複雑な気持ち……